「テクノロジーに助けられたい!?」2018FIFA ワールドカップロシア大会 雑報その①
その①があるということは②以降がある・・・とは限りません。
さていきなり盛り上がってますね~。今夜も寝られない・・・というわけにはいかないのが審判業務。今週末も試合で埋まってますので体調管理、体調管理と。
で、先ほど終わったばかりのフランス対オーストラリアの試合も審判的にも見どころ満載でした。
この試合を担当されたのはウルグアイの審判団。
主審 CUNHA Andresさん
A1 TARAN Nicolasさん
A2 ESPINOSA Mauricioさん
4th Julio BASCUÑANさん(チリ)
加えてヴィデオ副審はMauro VIGLIANOさん(アルゼンチン)ら4人の方々。
さてさて率直に言ってアンドレス・クンハ主審、本日は相当テクノロジーの恩恵を受けたと思います。
まずはフランスの1点目PKとなったファウル。後半11分ボールをドリブルしながらゴールに迫るグリーズマン選手をオーストラリアのリスドン選手がトリップでペナルティーエリア内で倒してしまいます。この事象に対してクンハ主審は笛を吹きませんでした。なぜ吹かなかった(吹けなかった)のか?それは多分事象を見ることが出来なかったからです。原因として:
1)クンハ主審、完全に「串刺し」の位置です。フランスの見事なスルーパスに出遅れてしまってますね。これ我々であればインストラクターの方からお叱りを受けるレベルです。
2)加えてトリップの事象自体も見極めが難しかったです。リスドン選手が最初に足を出したタイミングでは グリーズマン選手の足にはかかってないんですね。直後スライディングした体勢のリスドン選手の右足がグリーズマン選手の左足の足首の後ろもしくは脹脛あたりを上から押さえつけるような形になっているのですね。
の二つが挙げられるかと思います。
ここで出たー!ビデオ判定です。我々なら主審のポジションの悪さで異議の嵐にさらされたかもの結果を見事挽回です!う~ん・・・。
さて次に二つ目(多分)。今度は同じく後半15分にフランスのウムティティ選手が自陣ペナルティーエリア内で伸ばした腕でボールに触れてしまいオーストラリアにPKを与えてしまいます。
ここからは私の勝手な憶測です。オーストラリアの選手達の必死のハンドリングのアピールで詰め寄られた後でペナルティーマークを指しているクンハ主審。この時A2のエスピノサさんもしくはヴィデオ副審からの助言が電子通信システムを通じてあったのではと思います。これ、我々なら選手に詰め寄られて(事象をリアルタイムで見てないのに)笛吹いてPK与えたと思われかねないタイミングの悪さです。
ちなみにウムティティ選手のこのハンドリングに対しては反スポーツ的行為でイエローカードも検討すべき事象かと。
さて三つ目です。フランスの決勝点となった2点目のポグバ選手のループシュートです。ここもクンハ主審GLT(ゴールラインテクノロジー)システムによるヴィジュアルシグナルに助けられたものと思います。あの位置からのシュートだったのでオフサイドラインを監視していたA1のニコラスさんゴールインした時点ではゴールラインの真横の位置には到達できておりません。
これまた我々であれば審判団のだれも事象を目撃できずノーゴールの判定で紛糾していたかも・・・です。
さてこの試合審判団にとって難しい事象の連続だったでしょうか?確かにフランスの2点目はGLT(もしくは追加副審)の助けがないと判断困難だったかと思います。一方で二つのPKの判断についてはクンハ主審のポジショニングや笛を吹くタイミングに課題があったように思います。
まあ、どちらにしろ選手達にとっては「誤審」の被害を被ることなくフェアな結果になってめでたしめでたしかと思います。複雑な気分ではありますけど・・・。
さてこちらはテクノロジーの補助とは無縁の審判業務がこれからも続きます!
では、I'll be back.
PKもしくはPK戦における「正当なフェイント」と「不正なフェイント」
さて昨日の記事のフォローアップです。
(ここでの事象は6月6日(水)にパロマ瑞穂スタジアムで開催された天皇杯2回戦の名古屋グランパス(J1)対 奈良クラブ(奈良県代表/JFL)の試合後のPK戦で起こった奈良クラブ40番金久保彩選手のキックプレーを取り上げています)
私もそうですけど多くの審判員の方々が知りたいのは今回のキックフェイントは「正当なフェイントなのか不正なフェイントだったのか?」ということだと思います。
結論から書くと本日開催され公表されたJFA審判員委員会の判断は以下の様です。記事をそのまま引用させていただきます。
ここから引用>>>
審判委員会では、PK時の金久保のシュートそのものに違反があったかどうかを映像を使って確認した。蹴る際にフェイントを入れると不正になるが、助走中のフェイントは不正にならない。今回軸足でステップを踏んだ時点は助走の一部であると確認し、「主審の判定は誤りであった」と誤審であったことを公表した。
引用ここまで>>> 「デイリースポーツ」より引用
この記事が正確に審判委員会の判断を表現しているかどうかは今はまだ完全に把握できないのですけど、現時点では清水修平主審が不正なフェイントと判定したこと自体が間違いだったということになります。
正直言って清水さんに同情してしまう難しい事象だったように思います。ここでのポイントはあれが「ケンケン」だったということではなく「助走の完了」というのはどの時点になるのかということに尽きると思います。つまり:
「競技者が一度助走を完了した後、ボールをけるためにフェイントをする(助走中のフェイントは認められる)主審は、そのキッカーを警告する」
というのが不正フェイントと正当なフェイントの唯一の競技規則上の定義なのです。
なので今回の奈良クラブの金久保選手の助走はどこで完了したと見なすべきなのかが判定の分かれ道になるわけです。上記の記事通りだとすると審判委員会の見解は軸足でステップを踏む行為は助走の一連の行為となり、軸足が停止しボールをける体勢になって始めて「助走を完了した」状態になると理解できます。
蛇足ながら今回のような「事件」が報道されている記事を読むと担当記者の方の多くが正確に競技規則を理解していないまま執筆している、もしくはかなり読者に誤解を与える表現をしていることが分かります。例えば:
記事A「今季から禁止フェイント「失敗」」→ 不正なフェイントの場合は結果を「失敗」(=ゴールにならなかった)とすると表現しているつもりなんでしょうけどなんか今年の競技規則からフェイント自体が禁止になったように読めますね。
記事B「昨シーズンから、審判がフェイントと判断した場合、そのPKは失敗と見なすことになっていた。」→ 助走中のフェイントは認められていますよ。
記事C「奈良クの4人目のキックについて、主審は助走の際にフェイントを入れたと判断。競技規則に従い、「失敗」と判定すべきだった」→ だ・か・ら・・・助走中のフェイントは認められていますって(苦笑)。
というような感じです。記者の皆さん正しい情報の普及のために競技規則を読むとか、こちらの記事を定期購読して下さいね!
さて閑話休題。というわけで不正フェイントと正当なフェイントの判断の境目は「軸足が停止された(固定された)かどうか」ということになろうかと思います。なので仮に「軸足ケンケンキック」でも最後の軸足ステップでボールを蹴る体勢に入ったのちにフェイントがなされなければ正当なキックプレーとして認められ、同じ「軸足ケンケンキック」でも最後の軸足ステップの後になされたフェイントは不正となるわけです。これが私が「ケンケン」が事象の本質ではないと書いた理由なわけです。
う~んでもいきなり目の前でケンケンキックされたらやはり迷います。
あと、仮に助走後のフェイントが起こってもいきなり笛を吹いて止めることのないように。これは試合中のPKだろうが試合後のPK戦であろうが同じです。「主審がペナルティーキックを行う合図をしたならば、キックは行わなければならない」わけですから仮に不正なフェイントがあっても蹴らしてください。フェイントが起こった時点で笛を吹いて止める必要もなければ、それがフェイントかどうかを蹴り始めた瞬間からボールに触れるまでの間に判断するのは至難の業ですからじっくり見極めて判定してくださいね。
さて最後に質問です。以下の事象をあなたならどう判定しますか。
「キッカーは助走を停止したあとボールを蹴るふりをしたものの、それが認められないフェイントと気付き、再度後ろに下がり助走を始めた」
では、I'll be back.
チームで防ぐ競技規則の適用ミス
結構、記事ネタをため込んでいるのですけど(という筆が進まぬ言い訳)今日は「時事ネタ」を。
競技規則第10条「試合結果の決定」と第14条の「ペナルティーキック」は合わせ技で読んで記憶しておく必要があります。で、2015/2016年版までの「競技規則の解釈と審判員のためのガイドライン」に書かれていたキックの結果の要約表は不完全なもので要約になっていませんでした。これが2016年/2017年版の「ペナルティーキックの結果」の要約表は代表的な事象がほぼ網羅され分かりやすくなっております。さてこれでひと安心・・・とならないのは、2017年/2018年版においてさらに改正されているからでもありますけど、それよりもなによりも筆者が思うにペナルティーキックやペナルティーマークからのキックの「出現頻度」に競技規則の適用ミスを犯してしまう遠因であるのでは、というわけです。
つまりある程度の審判経験があればペナルティーキックやペナルティーマークからのキックを担当する機会は誰にでもあると思います。とはいえ、毎試合経験出来ることでもありません。毎週審判員されている方でも「久しぶりのペナルティーだなあ」なんてこともあるでしょう。特にキック前の要件やキック進行中の要件そしてキック結果に応じての決定と注意すべき点が多い「ペナルティーマークからのキック」において、競技規則に書かれている全ての事象について実際に経験するということは中々ないことです。ましてや繰り返し「競技者が一度助走を完了した後、ボールを蹴るためにフェイントする」という事象に出くわすことなんてありません。
このように出現頻度が少ないと「繰り返し学習」の効果は期待しづらく、ということはある意味4級審判員でも1級審判員でも経験豊かとは言えずその都度初心に立ち戻って細心の注意を払って競技規則の適用ミスを防ぐ必要があります。
ここからが筆者が考える適用ミスの防止策です。それは経験があまり出来ない事象だからこそ審判員がお互いに万全の準備(=事前確認)を行い、進行中も助け合うってことです。特に主審を担当している場合、競技規則を誰よりも完全に把握していることを前提としますのでなかなか自分から競技規則の記憶が曖昧な部分を副審に確認するとか、自分が適用ミスしそうになったらサインをだすなどして知らせてくれとは副審に頼み辛いものです。
もちろん競技規則の記憶が曖昧とか適用ミスしてしまうとかは審判員として許されることではありません。その上で少しでも進行方法や規則適用に不安を覚えるなら素直に審判団で確認し合うこと、そして3人(または4人)がチームとなって慎重に主審の進め方や判定を観察し必要に応じて助言し合うということです。
しかし試合結果が一度確定した後にペナルティーマークからのキックのやり直しを行う(=再試合)っていうのは前代未聞だなあ・・・。
では、I'll be back.
ゴールーキーパーが投げたボールに足を出して当てたら。
UEFAチャンピオンズリーグ決勝戦、レアル・マドリードが勝ち三連覇しましたね。
さて巷で話題になっている?レアルのカリム・ベンゼマ選手のあのプレー。つまりリヴァプールのGKロリス・カリウス選手が投げたボールに足を出して当ててゴールが認められたあのプレーのことです。
これはファウルではなく得点が認められるべきプレーであることをご納得いただけていない方は、以下の二つの過去記事(コメントもあわせて)をお読みください ↓
「 ゴールキーパーがボールを保持している状態を正確に言えますか?-前編 」
「 盃なのか?横顔なのか? 」
それにしても試合中は何が起こるか分からない・・・気が抜けないなあ・・・。
では、I'll be back.
「過剰な力」で犯す反則の指示が監督やコーチからあったなら。
あまりの怒りに過去記事へのリンクを貼りました。
この記事の中で以下のように私は書きました。
(引用ここから)
たとえ軽口でもたとえ冗談のような仕草でも:
●差別
●暴力
●生命への冒涜
を示唆したり意味したら「許さん!」というのが私の基準です。つまり退場もしくは退席ということですね。
(引用ここまで)
もしベンチ役員が「相手の選手に怪我させろ」なんてことを意味する(文言そのままでなくともそれを示唆している)ことを言ったら即退席です。
「非人道的な発言」なんて絶対許しません。
そんな監督がいたらサッカーというスポーツへの冒涜であります。それはアメリカンフットボールにおいても同じです。そんな監督やコーチのせいで長い歴史を持ったスポーツがスポーツでなくなります。そんな監督やコーチが指導者や学校の運営自体に関わっていたら長い歴史を持った教育機関も教育機関ではなくなってしまいます。
発言だけで許されないのであるのですから行為におよんでは絶対に許されません。「つぶせ」は「思いきってあたれ」という意味だった?答えは出ているではありませんか。それならなぜ「思いきってあたれ」では済まされない行為があったその直後に「何やってんだ!」との声が監督やコーチから上がらなかったのでしょうか?
これ以上真剣にプレーしている選手を冒涜することは止めて欲しい。
審判員である限りは自分の怒りという感情はコントロールする必要がありますけど、「許さん」という気持ちをもつべき瞬間も忘れてはなりません。審判員が守るべきは試合中の選手の安全だけではないのです。真剣に競技に打ち込む選手の尊厳もまた守らなければなりません。
では、I'll be back.
不意打ち突進は一発レッド
サッカー競技規則の102ページ目にある次の条文を今一度挙げておきます。
著しく不正なプレー
相手競技者の安全を脅かすタックルまたは挑むこと、また過剰な力や粗暴な行為を加え た場合、著しく不正なプレーを犯したことで罰せられなければならない。
いかなる競技者もボールに挑むときに、過剰な力や相手競技者の安全を脅かす方法で、 相手競技者に対し片足もしくは両足を使って前、横、あるいは後ろから突進した場合、著 しく不正なプレーを犯したことになる。
(下線筆者)
こうやってあらためて条文を読むとサッカーの競技規則は選手の安全を第一としていることがよく分かります。サッカーの審判員をやっていると、このことを強く感じられずにはいられません。サッカーの審判員は反則・違反を見極めるという手段のもと選手の安全を確保するという目的(だからこそサッカー競技の魅力を最大限引き出せる)を達成する義務があるわけです。
極論すれば多少の判定ミスがあっても常に選手の安全確保を第一と出来る審判員は良い審判員とも言えます。
今また2014年のワールドカップで起こった出来事に関した次の記事をお読みください⇒「『スパイクの裏側』ばかりに気を取られるな。『過剰な力』は一発レッド。」
この記事の中では「いかに準備ができていない状態で不意打ちをくらうことが負傷に繋がる危険をはらんでいるか」や「相手競技者のチャレンジに備えて相手の力に対抗する自身の力が準備できてないタイミングでの必要以上の力」や「過剰な力で頭部や胸部そして背部などに不意打ちの打撲をくらった場合は、その結果、重篤な状態におちいる可能性」について書いています。
今一度このタイミングで球技では絶対に許されない「不意打ち突進」の危険性について喚起したいと思います。それが許されないプレーであることはルールが異なるアメリカンフットボールでも同じということを強調しておきます。
では、I'll be back.
ハンドにおける多様性と多角監視
先月の記事で書いた3月3日に行われたガンバ大阪VS鹿島アントラーズの試合で筆者が最も注目した事象はあの「決定的な得点の機会か否か?」ではなく実は別のプレー(審判団の連携プレー)にありました。
それは前半10分ごろだったと思うのですけど、ペナルティエリア右側付近でボールを受けた攻撃側の鹿島の選手のトラップに対してA2の森川 浩次 さんが即フラッグアップ。西村主審の笛が鳴りました。このプレー、腕を使ってボールをコントロールしたようです。「ようです」と書いたのはTVカメラが写している方向からだとちょうど死角になってしまい直接ボールと腕の接触を見ることが出来ないのです。ただ森川さんの方向からだと正面に見えたはずでこれはまさにナイスファウルサポートです。
同じような事象と思われることが先日の日本女子代表のオーストラリア代表との試合でもありました。ロングボールのパスを受けた中島選手(だったはず)のトラップが腕を使ってのトラップであることをオーストラリアのDFの選手がアピールしていました。これまた死角になってTV画面では見えなかったのですけどA2の方からは見えていたはずです。旗は上がりませんでしたけど。
このようにハンドの反則の認定には副審と主審の連携プレーが重要になってくることが多々あります。特に主審から死角になる場合に備えて試合前に(特にペナルティエリアやゴール近くでの)副審に対して積極的なサポートをお願いしておくことは必須にしていいと思います。
競技規則にあるように「ボールを意図的に手または腕で扱う」ことが反則なのでハンドの認定には「意図」を見抜くことが大切です。
ハンドの意図とは:
1)パスを止める
2)トラップする
3)自分がプレーしやすいようにコントロールする
4)得点する(しようとする)
5)得点を阻止する
に大別できるかと思います。
今回フォーカスを当てたのが2)ですね。この2)のパターンで代表的なのが:
i) 胸でトラップしながら両方の腕(特に上腕で)でボールを挟むこむようにする
ii) 胸でトラップしているように見えて腕(これまた上腕で)を身体と一体化させながら止める
というプレーがあります。
この辺は監視する方が意識していないと一連の正当なプレーとして見落としてしまう可能性があります。なので試合を通じてどのようなパターンのハンドがあるのか、また腕については常に意識して見ておく必要があります。
この辺のパターン学習の教材としては残念ながら?「これは笛鳴っていないけど完全にハンドの反則では?」と思える動画が多数ネット上にアップされています。
Jリーグ担当の審判員の方でもハンドの反則の見落としがある原因の一つは死角になって見えなかったというこもあるとは思います。これについては冒頭に書いたように副審と主審の連携監視が有効でしょう。で、その他の原因としては事象としてハンドを見極める難しさもあります。それは「これって意図的か?避けられなかった手の接触か?」ということの見極めの難しさではなく(もちろんそれもありますけど)ハンドというのは「単独行為」であることの難しさということです。
これは私の仮説なのですけど、通常ファウルは相手競技者に対して「不用意に」「無謀に」そして「過剰な力で」為されるプレーが念頭に置かれています。つまりそのような行為を見極めようと主審の意識は集中されている状態が常なので、どうしても二人以上の競技者の動きに注意を奪われがちで目の前で行われている一人の競技者の行為を正確に認識できないのではということです。よくマジシャンが観客の注意を他に向けておいて・・・っていうテクニックにハマっている状況と似ている・・・?
なので死角を作らないだけでなく副審と監視対象行為を分担しておくことで視野だけでなく認識パターンも多角化できるのではと思うわけです。
いずれにしてもサッカーでは手を使うプレーは存在してはならないので、その不正については念には念を入れましょうという自戒も込めてのお話でした。
では、I'll be back.