ターミネーター3級審判員の反省部屋

パブリックプレッシャーを感じながら今日も走る。サッカー3級審判員の"I'll be back!"な毎日

サッカーと落雷 - 審判員における決断力と「勇気」

本日は大気が不安定との予報なので午前中に外出での用事を済ませて、お昼過ぎに自転車で帰宅途中、雨粒がポロリポロリ。

 

で、用心のためにAmazonにて購入した「ストライクアラート」なる落雷警報機のスイッチをオンにして身に付けておりました。すると「ピピッ!」と鋭い警報音が鳴ったと思ったら上空でゴロゴロと音が。オイオイこれじゃ間に合わないよ~(苦笑)

 

午前中に用事に向かう途中、自転車で次男と一緒に高校のグランドを通りかかったらサッカーの公式戦開催中(ちなみに次男が進学する高校。わりと強豪です)。

 

で、つい想像してみました。グランドの状態も問題なく、試合も終盤。ところが急激に空模様があやしくなり、辺りは暗くなって遠くでは雷鳴も。さて、質問です。あなたが主審だったらどうしますか?

 

この質問は(いわゆる「常識」とはちがう)自分が体験した落雷への恐怖や「予兆があるのに何もしなかったことがいかに怖いか」という個人的な経験からきている質問でもあります。

 

第5 条 主審

主審の権限
各試合は、任命された試合に関して競技規則を施行する一切の権限を持つ主審によってコントロールされる。


職権と任務
主審は、
(中略)
●競技規則のあらゆる違反に対して、主審の裁量により試合を停止し、一時的に中断し、または中止する。
●外部からのなんらかの妨害があった場合、試合を停止し、一時的に中断し、または中
止する。

 

この競技規則を見る限り「外部からのなんらかの妨害」に気象条件が含まれるかどうかは明らかではありません。では、「落雷の危険回避」のために試合を中断させたり中止させる主審の行為を正当化する規定はあるのでしょうか?

 

第5 条 主審

国際サッカー評議会の決定
決定1
主審(また適用されるものに関しては、副審、第4 の審判員)は、以下のことに法的な責任を負わない。
競技者、役員または観客のあらゆる負傷
すべての財産についてのあらゆる損害
主審の競技規則による決定または試合の開催、競技、管理に必要な一般的な進め方に基づく決定によって起きた、あるいは起きたであろうと思われる、個人、クラブ、会社、協会またはその他の団体に対するその他の損失
これらの決定には、以下のものが含まれる。
フィールドやその周辺の状態または天候の状態が試合を開催できるかできないかの決

●なんらかの理由による試合中止の決定
●試合中に使用するフィールドの設備およびボールの適合性に関する決定
●観客の妨害または観客席でのなんらかの問題により、試合を停止するかしないかの決

●負傷した競技者を治療のためにフィールドから退出させるために、プレーを停止する
かしないかの決定
●負傷した競技者を治療のためにフィールドから退出させる必要があるかないかの決定
●競技者がある種の衣服や用具を着用することを認めるか認めないかの決定
●(主審の権限が及ぶ場所において)いかなる者(チームまたはスタジアムの役員、警
備担当者、カメラマン、その他メディア関係者を含む)のフィールド周辺への立ち入
りを許可するかしないかについての決定
●競技規則またはその試合が行われるFIFA、大陸連盟、または加盟協会およびリーグ
の規約や規程にある任務に従って主審が下したその他の決定

 (下線筆者)

 

以上の国際サッカー評議会の決定は主審が法的責任を負わないことを規定しているもので直接的に職権を規定していものではありません。ただ、これに準ずると「気象条件による試合の開催可否、中断、中止の決定」も主審の職権であると解釈してなんら問題ないでしょう。

 

で、さらに競技規則をめくってみますと、まさに「サッカー活動中の落雷事故の防止策についての指針」というタイトルで7ページにわたり(188P~194P)落雷の予兆があった場合の基本的指針とその実行プロセスを日本サッカー協会規定しています。

 

その「基本的指針」は以下の通りです。

 

サッカー活動中の落雷事故の防止対策についての指針
1. [基本的指針]
全てのサッカー関係者は、屋外でのサッカー活動中(試合だけでなくトレーニングも含む)に落雷の予兆があった場合は、速やかに活動を中止し、危険性がなくなると判断されるまで安全な場所に避難するなど、選手の安全確保を最優先事項として常に留意する。特にユース年代~キッズ年代の活動に際しては、自らの判断により活動を中止することが難しい年代であることを配慮しなければならない。
※ 全てのサッカー関係者とは主として指導者(部活動の顧問含む)、審判員、運営関係者などであるが、下記にある通り放送局やスポンサー他、選手も含めて広義に解釈するものである。
(下線筆者)

 

実はAmazonで見つけた「ストライクアラート(落雷警報機)」を購入したのも審判活動で活用しようという目論見なんです。もちろん試合中にはこのような機器を身につけることは(現行では)認められません。

 

また機器の性能からしても常に正確にそして事前に落雷の危険を予報できるものでもありません。どちらかというと、この機器をきっかけにして「雷雲が近づいてますね。試合どうします?」と(根拠がない主観や恐怖心でなく客観的なデータで)主催者や運営者側にアプローチできればという思惑もあります。

 

で、自分が主審(もしくは副審)担当で「落雷の予兆があった場合」にはどうするか?主審であれば躊躇なく試合中止(中断)の決定を行います。副審担当であれば主審に進言します。

 

ここまで雷にこだわるのは、もちろんこの判断が選手の(生命の)安全確保に直接関わるからでもあります。それと先に書いたように自分の個人的な経験からでもあります。

 

2つの出来ごとがありました。

 

ひとつは小学生のころ、サッカー少年というより野球少年だったころ毎日のように公道で(プラスティックのボールとバットを使い)野球三昧していたとある時。まさに自分達から十メートルも離れていないかと思われる場所に落雷があったのです。なんの前触れもなくといっていいでしょう。雨が降っていた覚えもないし。

 

さいわい周りの世帯が一時停電になっただけで、けが人はなし。でもあの落雷の瞬間や皆の反応は数十年経った今でも鮮やかに蘇ります。まさに「一撃!」です。

 

ふたつめは最近のこと。自分の家の近くで崩落があり、このときも奇跡的にけが人はなかったのでした。でも、自分が家族が普通に通行している道が一瞬にして、落ちてきた巨大な岩で埋まってしまった恐怖。

 

この崩落、実は全然予兆がなかったわけではないので、この時は事前に積極的な行動を起こさなかったことや、何より子供達に十分な「警報」や「迂回行動」をとらせなかったことを反省しました。いや、「何か」起こっていたら、後悔どころではないでしょう。

 

子供時分の落雷経験と最近経験した「予兆があるのに行動しない」、この二つの恐ろしさが自分にとってより深くサッカー活動において落雷事故の防止を考えさせる源になっています。

 

さて先に挙げた「サッカー活動中の落雷事故の防止対策についての指針」の中にあるフローチャート「危機事象(落雷)発生時の試合運営に関わる判断について」によると試合の遅延、中断、中止、再開および成立についての決定責任者は:

 

①主審

マッチコミッショナー

③大会・試合運営責任者

 

となっています。

 

これ、試合前の確認合意事項としては結構大変なことではあります。いわく「誰がどのような基準で危険と、または危険性がないと判断するのか?」とか「中止再試合が不可能な場合、どのような要件を満たせば試合成立とするのか?」等々、これを普通の小学生の公式戦の前に打ち合わせしておくなんてのは通常はないでしょう。

 

でも、試合前に気象状況などの情報を掴んでいるなら、そのことを積極的に運営者側と意思疎通して上記について事前に主審として主体的に決めごとを作っておこうとすることは、とても大切な職務だと思います。

 

で、これらの決めごともなく試合が開始され途中で主審が落雷の危険を感じたら・・・どうすべきか?これが冒頭での質問です。さらに判断(決断)しにくい状況だとしたらどうしますか?例えば:

 

●主審である自分は危険と判断したのに大会運営者側は(危険性を)認めず試合の継続を望んでいる。

●逆に自分は危険性はないと判断したのに選手が不安がっている。

●主審も大会運営側も同様に危険性を感じているものの試合も終盤であと数分で終了する。試合を中止した場合の事前の取り決めもなかった。運営者側は再試合には難色を示している。

 

などなど。

 

そもそも、このように主審と運営者側で見解が異なり協議になるとしたら、どちらかが危険性を感知し選手の安全を考慮している状況なのでまだ、ましといえるのでは。

 

では、まったく落雷に対する警戒が無かったらどうでしょうか?

 

この落雷事故防止の判断を行い試合中止などを実施する決断力や「勇気」(俺は私は雷なんて怖くないよ~っていうのは勇気ではないですからね)はどうすれば具わるでしょうか?

 

やはり、審判員として(そしてサッカ-競技に関わるすべての人たちに)落雷の危険性に対する認識と今現在入手可能な知識だけはもってもらいたいと思います。

 

ここでは気象庁のHPや日本サッカー協会から参考資料として示されている日本大気電気学会編「雷から身を守るにはー安全対策Q&A-改定版」などがまずは役立つことを挙げておくにとどめますので、ぜひご自分で参考にしてくださいね。

 

次に自分の経験から気付いた点だけ箇条書きにします。

 

●落雷は極めてまれな(身近での発生確率がとても低い)自然現象ではない(どこでもいつでも条件さえそろえば起こりえる。実は落雷の個人的経験は1度だけでないのです。)

●何の予兆もない(かのように)状態で突然起こる

●気象条件が回復した(と思われる)状態でも起こりえる

●サッカーのようなフィールドも含む全ての屋外で100%安全な場所はないと心得る。(屋内でさえ危険な場合がある)

●金属を身につけていることの有無は落雷の回避可能性とはなんら関係ない。

●直撃だけが事故だけでない(「周辺」への落雷がどう人間にとって危険となりえるかは上記参考文献をご参照)

 

もちろん落雷自体は自然現象なので回避することは不可能です。ただ「無知」からくる無作為や「間違った勇気」(=雷になんかに怯えているのは恥ずかしいこと)で選手や子供達を危険に晒すことだけは、どうか止めてください。

 

日本サッカー協会の「サッカー活動中の落雷事故の防止対策についての指針」は2006年4月11日付なわけですから今現在で審判員として(ついでにいわせてもらうと「平均的な」サッカー指導者・関係者として)知らなかったでは済ませれません。

*「平均的な」とは何らかの事故があった場合にその責を問われた被告に過失や瑕疵があったかどうかの法的判断基準として示される典型的な言葉のようです。ここでは法律の門外漢として法律論には立ち入りません。ただ、その「平均」が低いせいで、選手や子供達が不利益を被っていたらそれを「平均」とよんでいいものか?とだけ付記させて頂きます。

 

さて審判員としての提言です。

「REFEEREES’ DIARY」にある【審判員として心がけるべきこと】の≪前日≫の項目に:

●試合会場周辺の気象情報を確認します

を追加してはどうでしょうか?

そして≪試合前≫の項目に:

●気象状況(特に「落雷の予兆の有無」)を確認します

も追加したらどうでしょうか?

 

ちょっと、今回の落雷の件では選手の安全にかかわる事象なのでいつも以上に熱くなってしまいました。分かりづらい点、疑問、ご意見あれば何なりとご指摘ください。

 

読んでいただいた皆さまのサッカー審判員としての落雷事故の防止に対する関心が少しでも高まればと思い今回は筆をとりました。

 

では、I'll be back