「去年マリエンバートで」-サッカー審判員の記憶と記録の狭間
本日は所属チームに帯同して公式戦の主審を担当。で、8人制って知らなかったんですけど(汗)。審判2人制。それなのに対角線審判方式やったりして、あっー勝手が違った。言い訳ですね。無駄な笛が多かったです。反省。
さて今さらながらの周回遅れのような話題で思ったことを。何かというと巷で先週盛り上がった?J1第8節鹿島アントラーズVSヴィッセル神戸の試合での鹿島のFWダヴィ選手が決めた「ごっつあん」ゴール。
色々と解釈されたり見解が述べられていますけど、事実だけ書いておくと:
①参考にできる記録映像を見る限り、ダヴィ選手はオフサイドポジションにいた。
②副審はオフサイドの反則が成立したと判定(下記「審判員のためのガイドライン」ご参照)したので旗を上げた(オフサイドポジションにいるだけで旗上げたら怒れますよん~)
③主審は副審の合図に気付いていた。しかし主審は副審のオフサイドの反則の判定にもかかわらずプレーを止める決定は行わなかった。
となりますでしょうか。
審判員のためのガイドライン 副審のシグナル P100
オフサイド
副審は、オフサイドと判定したならば、まず旗を上げる。その後、旗を用い、反則のあった地域を示す。
*ここに「判定」という言葉を使っているのは紛らわしいというのが私見です。英語でも主審の決定にもdecision副審のオフサイド「判定」にもdecisionとあってこれも紛らわしい。「判定」ではなく「判断」とすべきかと。うん?、あんまり変わらない?・・・かもですね。
さて繰り返し映像を見た私の解釈は:
①は議論の余地なし。
②はダヴィ選手にパスされたボールのころがる方向、ダヴィ選手の動きそしてダヴィ選手の真横に来たボールからダヴィ選手がいたポジションからの距離からすると副審のフラッグアップは妥当のようにも思います。
③はダヴィ選手の横を通過した後のボールのころがるスピードと副審のフラッグアップに気付きダヴィ選手が急速に走るスピードを緩めたので主審はダヴィ選手より先に神戸GKの山本選手が高い確率で「安全に(=ダヴィ選手と交錯したり、チャレンジされることなく)」ボールをコントロール下に置けると判断。そのままプレーを続行することに決定(ここは「主審がアドバンテージを適用した」とか「主審はプレーオンのシグナルをすべき」とかの場面ではありませんね。アドバンテージを適用する(=プレーオン)の意味はこちらをご参照 →「 無理してプレーオンしてませんか? 」)
というところでしょうか。
ですから上記の事実③に解釈を加えると:
③主審は副審の合図に気付いていた。しかし主審は副審のオフサイドの反則の判定にもかかわらず直後のプレーの流れを見てプレーを止める決定は行わなかった。
となります。
で、③の解釈のポイントは「副審のフラッグアップに気付きダヴィ選手が急速に走るスピードを緩めた」です。ダヴィ選手はボールをプレーできる可能性が低いので走るスピードを緩めたのではなく、もともと「自分がオフサイドポジションンにいたことを自覚していた」ので副審のフラッグアップを見てボールを追いかけるのをやめた、
というわけです。
なぜならダヴィ選手は主審の笛が鳴ってないのにもかかわらずプレーを止めて直後に副審の方に顔を向けて「えーーっ?」って感じで両手を広げています。
では笛に気付いてないかといえば・・・いうまでもありませんね。(これ、すべての展開を予想してやっていたらスーパープレーですね。はは。)
ちなみにダヴィ選手がボールに触れる前に後方から追いかけてきた神戸の選手に干渉してもオフサイド成立ですね。
さて、ここまで書いた以上のような「憶測」は置いといて(ごめんなさい梯子を外した?ような展開で)自分がもし副審として、そして主審としてこのような場面に直面していたらどうするか?と考えました。特に小学生の試合だったらどうするか?と考えてみました。
主審、副審どちらにしても正直にいえば、あのような形での得点は避けたいというのが偽らざる気持ちです。
例えば、今回の場合、フラッグアップした副審は主審がプレーを流していることを素早く見極めボールの方向に向かって移動を再開しました。
でも、4種の試合では経験のない副審の方があのように素早く主審の判断を見極め旗を降ろして動きを再開することは難しいような。その場で副審がフラッグアップしたまま立ち止まっているのを見た主審はゴールキーパーがコントロールできると判断したのでフラッグアップのキャンセレーションをします。それにもかかわらずゴールキーパーがオフサイドの反則になったと思いこみボールをプレー再開の場所まで返したら。そして…。うーん、これが決勝点だとやはり後味悪いですね。
もしプレーを全員が止めるような状態になったら主審として「笛鳴ってないよ―!プレー続けて!」というのもありかと思います。
自分が副審だったとしたら、やってしまいそうな動きの一つにパスが出た瞬間のオフサイドラインの場所で立ち止まり「プレーに干渉する」か「相手競技者に干渉する」まで、もしくはゴールキーパーが保持できるかゴールラインを割ってしまうまで、横目でボールとオフサイドポジションにいた攻撃側選手を追いかけている、かもしれません。(いうまでもなくこれはいけない動きですね。オフサイドの反則が成立した場合のプレー再開場所を頭にいれつつボールを追いかけるべきですね。)
ここまで、どうでもいいようなことを書く理由は愚痴にもなるんですけど「Jリーグ」などとの決定的な違いがあるからです。
それは試合の後で主審として(副審として)自分の決定(判定)の正しさを主張したくても記録映像が残っていないということがあります。
今回も鹿島と神戸の試合も映像を繰り返し見ない限り自分の見解をまとめることもできなかったと思います。
で、通常我々が担当している試合では映像記録はなく、かわりに応援されている方々の記憶が様々な形で残ります(なんかヘタな審判じゃない?とか)。あとで「弁解」も「検証」もできません。もちろん、仮に映像が残っていても、避けたいなあ~ああいうような形の得点は。
例え人の記憶が学生の時に観たアラン・レネ監督の「去年マリエンバート」の登場人物たちの記憶のように曖昧でも(この映画、筋があったような無かったような全然覚えてない。代わりに映像のみ焼き付いている映画です。まあアラン・レネ的ですね。)勝ったチームにも負けたチームにも皆に納得される試合にしたいなあと小市民的審判員としては思うわけです。
こちとら去年どころか先週の記憶も曖昧なこのごろ。反省の毎日です。
なんか、今回もとりとめのない、すっきりしない話でごめんなさい。
では、I'll be back.