ターミネーター3級審判員の反省部屋

パブリックプレッシャーを感じながら今日も走る。サッカー3級審判員の"I'll be back!"な毎日

サッカーのファウルと反則と違反のちがいを説明できますか?(後編 まとめ)

 さて、この特集記事も一カ月以上に及んでいます。今回で一応結びにしたいのですけど最初の試みである構造主義のアプローチで競技規則を分析しながら「ちがい」に迫る、つまり言葉と言葉の関係の仕方を解き明かし、ファウルと反則と違反の全体像を浮かび上がらす・・・からは見事逸れてしまいました(汗笑)。

 

この点、ロランバルトが行おうとして途中で挫折した?「書かれた衣服」の分析である著作「モードの体系 その言語表現による記号学的分析」が辿った経過と似ています(ってレベルが違うだろ)。

 

というわけでもないのですけど、最後に「書かれた」という視点で「ちがい」とその外周を辿ってみたいと思います。「ファウル」「反則」「違反」という言葉の分析だったわけなので、当たり前ですけど「書かれた」ことが分析対象だったのですけど、それが一筋縄に行かなかったのは「書かれてない」ことがあるからでもあります。

 

と前置き長くなってしいましたけど、ここから最終章です。

 

⑦ 「書かれたこと」 / 「書かれなかったこと」

 

「書かれたこと」とは競技規則のことです。違反を一番シンプルに定義すると「書かれたことに反するもしくは違ってしまうこと」となりますね。で、「書かれなかったこと」とは「競技規則の解釈と審判員のためのガイドライン」のことです。

 

と、最初の段階では考えました。

 

つまり、違反は競技規則だけですべてを規定できる。対して反則は様々な具体的事象を踏まえて規定しなければならず競技規則には書ききれなかったというわけです。けど、ガイドラインも結局のところは競技規則に書ききれなかったことについて(もちろん重複も含みながら)「書かれたこと」です。なので:

 

違反 = 書かれたこと

反則 = 書かれたことと、および書かれなかったこと

 

とちがいを定義づけることを考えたわけですけど、これはあまり意味のないことでした。

 

ただ、本当に「書かれなかったこと」もあります。

  

例えば次のようなガイドラインの文章を見てみましょう。

 

競技規則の解釈と審判員のためのガイドライン 第12条ファウルと不正行為

反スポーツ的行為に対する警告

●ボールがインプレー中、競技者が競技規則の裏をかき、意図的に策略を用いて味方の
ゴールキーパーに頭や胸、膝などでボールをパスする。ゴールキーパーがボールに手
または腕で触れたか否かは関係しない。競技者は、第12 条の条文とその精神に反した
策略を試みるという反則を犯したのである。プレーは、間接フリーキックで再開され
る。

(下線筆者)

 

「その精神」なんてどこに書かれているのか?競技規則にはないですよね。ガイドラインにさえ書かれていません。

 

 

このような文章もあります。

 

競技規則の解釈と審判員のためのガイドライン 第12条ファウルと不正行為

得点の喜び

得点の喜びに対応するにあたって、主審、副審および第4の審判員は予防的に対応するとともにコモンセンスを用いることが求められる。

(下線筆者)

 

「コモンセンス」・・・これ以上、説明する文章はありません。

 

この「コモンセンス」については松崎康弘さんの著書「ポジティブ・レフェリング」でも触れられている言葉ですよね。

 

松崎さんは「17条の次に、”18条=コモンセンス”という条文が隠されている」と紹介されてます。そしてコモンセンスを「サッカーの長い歴史を通して、数えきれないほどの多くの選手、観客、審判員たちが共有してきた『サッカーとはこういうもの』だという考え方」と説明されています。

 

私はガイドラインにあるこの「コモンセンス」という言葉をもっと広義に解釈しています。つまり「社会通念」とか「あらゆる競技(スポーツ)一般における精神」という意味です。

 

上記の例でいえば、「確かに競技規則通りの進め方だけど、そりゃだめ(ずるい)でしょう」とか「確かに勝手にフィールド離れたけど、そこで警告したら競技としての盛り上がりに水差すでしょう」という常識的な感覚ということです。

 

競技規則全般にかかわる「違反」の外周にこの「コモンセンス」が位置していると思います。ですから「違反」はある意味「反則」より「コモンセンス」と隣接しているとも言えると思います。ので、「違反」とするかどうかの判断には常に「コモンセンス」との付き合わせが求められると思います。このことは「競技規則は、規則にすぎない。実際の判定はまた別。」というような「建前と本音」の構図ではありません。そんな「大人の事情」のようなご理解をくれぐれも、なされないようにお願いします。これについては、あらためて書きますね。

 

横道に逸れてしまいました。閑話休題

「コモンセンス」や「精神」という言葉があることで、サッカーにおける違反をファウルという言葉だけで包括することには無理があり、反則という言葉だけで包括することも十分ではないことがわかります。

 

さて最後に「ちがい」のまとめです。

 

      主体            状況            該当条文

ファウル  競技者          インプレー中         第12条

                   フィールドの中    

 

反則    競技者          インプレーでも        第11条

      交代要員         アウトオブプレーでも     第12条

      交代して退いた競技者   フィールドの中でも外でも

 

違反   競技者           インプレーでも       すべての条文

     交代要員          アウトオブプレーでも

     交代して退いた競技者    フィールドの中でも外でも

     チーム役員

     退場を命じられた競技者

     主審 副審 第4の審判員  

     観客 その他

 

これで今回の特集終了です。ただ、完璧な分析とはまだまだほど遠いので・・・

またやります!

 

では、I'll be back.