ターミネーター3級審判員の反省部屋

パブリックプレッシャーを感じながら今日も走る。サッカー3級審判員の"I'll be back!"な毎日

サッカー審判員の「批評と弱点」(後半)

さて、トゥーロン国際大会の日本対ポルトガル戦の主審の「ツッコミどころ」と実況アナウンサーの方の「理解不足」について・・・なんて言っていたらイングランド戦も終わりました。

 

さて先に「理解不足」について書くと、まあ例のバックパスなんかは競技規則やガイドラインにも明確に記述されていないので、ここはキックとは「足のどの部分でボールを扱うことなのか」の補足があればよりバックパスについての正しい認知が広がる(それだけでは不十分でしょうけど)とは思います。

 

で、私が実況のアナウンサーの方の言葉に審判員として過剰に反応してしまったのは前半31分過ぎのこと。植田選手からのロングパスが、前線の浅野選手に通ろうかとしていたら・・・オフサイドフラッグがあがり「浅野へ、受ける、オフサイドです。遅れてフラッグがあがりました」の実況。

 

さて、この場面浅野選手の裏に抜ける動きは二人のポルトガル選手のDFによるオフサイドラインのコントロールにより完全に無力化されオフサイドポジションにいてボールを先に触るのは浅野選手ばかり、という状況でした。では、A2の方のフラッグアップはというと・・・全く遅くないですね。浅野選手がボールをトラップするタイミングで旗をあげてますのでウエイト&シーの基本通りで問題なし。つまりいくらボールに触れるのは可能性として、ほぼ浅野選手しかいなくても反則が成立するまで旗を上げないという見極め動作のお手本だと思います。

 

まあ、実況の方はそんな意味合い(つまり「ボールは浅野選手に向かっていてもともと浅野選手はオフサイドポジションにいたんだから、もうちょっと早くあがれば浅野選手だって裏のスペースに向かってあんなに走らなくてもよかったのに」というニュアンスでしょうか)ではなかったかもしれませんけど、どうしてもフラッグアップのタイミングが「遅れて」なんて言われると過剰に反応してしまうんです。はい。

 

これはちょど自分が先週末にU-10の試合で副審を務めたときの事象を思い出したからでもあるんです。何列か並んだ前線の攻撃側選手を監視していた時一人の選手がオフサイドポジションにいたのを見極め、彼のところにボールが行ったので、思いっきり旗あげたら「触ってないよー!」のベンチの声。そう、その前にオンサイドの別の選手がシュート。(主審の方が後で気を使ってくれたのか「旗気づきませんでした」と言ってくれましたけど、)結果ボールがゴールラインを割った後にすぐ、私のフラッグアップを見た主審の方とお互いアイコンタクトしながらフラッグをキャンセル、ゴールキックでの再開となりました。

 

見込みでフラッグアップは厳禁なんですね。

 

もうひとつの事象オフサイドポジションにいた選手が、すでにゴールキーパーの足元にいっているボールに向かってプレーに干渉しそうになったんですけど、フラッグアップを保留。無事?ゴールキーパーはボールを前線に蹴り出しそのままプレーは続きました。これプレーに干渉した時点で旗をあげると「遅い!」って周りからは言われそうでした。もちろんゴールキーパーとの接触が危険を呼びそうな局面では早めのフラッグアップが望まれますね。自分が主審だと早めにフラッグアップされても見極めながらキャンセルできるんですけど・・・この辺主審と副審のアイコンタクト(連動)が重要です。

 

というわけで、「遅くない!」とついつい叫んでしまったわけです。過敏かな~。

「理解不足」なんて言っておきながらフォローさせていただくと、実況の方も競技規則をほぼほぼ理解されていたかとは思います。まあ、バックパスのシーンは解説の早野 宏史さんの明確なフォローがあるとよかったかも(少なくとも、その後のいわれなき審判批判の声のいくつかは防止できたかもです)、そして例の「ハンド」のシーンでは反則かどうか選手の意図を見極めるポイントについてのガイドラインの条文をすぐに実況の方が付け加えるとかしたら一方的な「主審の見落とし(≒誤審)」批判を、これまたある程度は防止できていたかもな~なんて思います。

 

さてその「ハンド」で始めた主審のミロさんの「ツッコミどころ」についてです。

前半で書いたようにミロ主審がポルトガルのエンリケ選手のプレーをハンドリングの反則と判定しなかった理由で考えられることは:

 

1)エンリケ選手の意図は認めず偶発的に腕にボールが当たったと判断した。

2)エンリケ選手のハンドリングと認めたものの、その直後野津田選手がシュートできるとみてアドバンテージを適用した(ちなみに、ここでプレーオンのシグナル&声を出すと「やっかい」なことになる可能性があり・・・なんですね)

3)そもそも腕にボールが当たった事象が見えなかった。

 

の三つでした。まあ1)ということなんでしょう。

 

で、2)なんですけど確かに野津田選手の足元にボールが落ちていてシュートチャンスとも言えます。ただ前にいる複数ポルトガル選手の位置から考えるとシュートコースはかなり限られていてPKを上回るアドバンテージとは思えません。というわけで日本側から見るとアドバンテージなんか適用しないで、PKにしてよ!ってことになると思います。よってミロ主審がハンドリングの反則をみながらプレーオン(シグナルなしで)をかけてアドバンテージをかけた可能性はないでしょう。

 

ちなみにこのような局面で(つまりペナルティエリア内のファウルという判断で)仮にアドバンテージをみてプレーオンのシグナル&声出してしまった場合には「無事」ゴールとなればいいですけど、シュートが枠をはずれたら・・・すでにシュートというアドバンテージの権利を実行したのでその時点でロールバックは行わないということになります。しかしそれだとアドバンテージをもらった攻撃側チームとしたら「笛吹いてよ~」ってことにもなりますね。決定的な得点の阻止ではない状況でペナルティエリア内での守備側選手よるハンドの反則直後に、続けてシュートされたボールがゴールインなんて状況、私も経験ありです。ですので守備側チームによるハンドの反則があっても、各選手のポジションや体勢等々、一呼吸状況を見極めてから笛を吹くべきかと思います。ただU12以下なんかではハンドの直後に守備側選手が主審の笛が鳴るものばかりだと思い込みフリーズ(静止)してしまい、その隙に攻撃側選手がシュートを決めるなんてこともあり得ます・・・うーん色々と「やっかい」です。

 

さて、3)についてはミロ主審がまさか事象を目撃できなかったとは思いませんけど、南野選手がちょうどエンリケ選手に重なるような形でミロ主審の視界を遮ったので主審は事象が見えなかったのでは?・・・ということが一瞬頭をよぎってしまいました。実はこれには伏線があり、それが「ツッコミどころ」なんですね。

 

そう、それは前半に予告したようにミロ主審の動きなんです。

 

まずは誤解なきように書いておきますと試合全般にわたりミロ主審の動きは素晴らしいものだったと思います。ジョグ、スプリント、バックステップ、サイドステップなどなど状況に応じて使い分け的確にポジションを変えながら争点を監視していたと思います。ただ・・・1点を除いて。それは「動き出しのタイミング」なんですね。これが私の眼には「もう少し早くてもいいのでは?」と思ってしまう場面がありました。特にフィールドを縦に選手たちが速いスピードで駆け上がっていくときの動きですね。分かりやすい例でいえば浅野選手が裏に抜けてポルトガルDF陣と競り合いながらゴールに向かう場面などではポジションとしては「串刺し」になっていたような。距離も遠いかな~。

 

これまた週末の試合で、他のチームの帯同審判の動きを見ているとやはり遅いんですね動き出しが。もちろんミロ主審のレベルと比べるのは適切ではありませんけど、どの方も試合全体を通じて動けていない(動いていない)とも言えます。そもそも4種のカテゴリーでずーっと動いていない主審が突如、全力疾走を始めたら審判員の動きとしては「オカシイ」と思ってください。変化していく争点を監視するためにこまめに的確な位置取りを主審が心がけているなら4種のフィールドの大きさや選手たちのスピードでは、主審として(周りから見て余裕がないような)全力疾走が生じることは私の経験上ありません(もちろん相手コーナーキック直後の自陣深い位置からの素早いカウンター攻撃に転じる場合など、全力疾走が全く必要ないわけではないですよ)。

 

もっと言えばシニア審判員としては本当に必要な時のためにスプリントするスタミナを温存するためにも「動き出しの早さ」が命なんですね。はい。早くスタートすれば少ない走力で争点に迫れるというわけです。

 

とにかく最初はあまり深く考えず争点に近づくことだけに集中しましょう。これを試合を通じて集中してやるとヘトヘトになるはずです。で、このように動く習慣が出来てから以下の不都合な真実に向き合えばいいのです(大袈裟)それは:

 

「ある争点に近づくということは、次の争点から遠ざかる、または次の争点のためのより良い視野を犠牲にするリスクが高まることと表裏である。」

 

ということです。

 

このことがあるから、ただ闇雲に争点(あるいはボールに)に近寄ればいいわけではなく、常に次の争点を予測(意識)した上で今の争点との距離やそれを監視すべくポジションを決める必要があるんですよね。

 

ということからも過去記事でも繰り返し書いている、この「動き出しの早さ」の重要性がお分かりいただけるかと思います。

 

さてミロ主審の場合、高いレベルで私がそう感じていただけで、けっして動き出しが悪いわけではなかったかもしれませんけど、ここが審判員の性(さが)なんですね。つまり上記のオフサイドの見極めにしても動き出しについても自分の「弱点」だと感じていることを他の審判員の中に投影して「批評」してしまうんですね。まあ、ここに書いていること全部だともいえます。

 

また蛇足ながら上記の「ハンド」のケースにおいても、あまりに明らかに伸ばした腕などにボールが触れたのを見ると(つまり事象がクリアに見えると)すぐに笛を吹かないでその意図を深読みして「セーフ」にしてしまうこともあります。このような場合あとで振り返ると「直観」より「理屈」に走り過ぎたかな~と反省することがあります。これは私の性(さが)です。

 

というわけで、ミロ主審、自分のことを棚に上げて批評している日本の3級審判員をお許しくださいませ!お手本とさせていただいたことの方が多かったことは間違いございません。

 

では、I'll be back.