ターミネーター3級審判員の反省部屋

パブリックプレッシャーを感じながら今日も走る。サッカー3級審判員の"I'll be back!"な毎日

どっちのファウル?

最近気になったニュースでいわゆるスピード違反で罪に問われた方が裁判で無罪になったというものがありました。

 

この裁判で弁護側は「別の車両と取り間違えて取り締まりを行ったのでは」と反論。判決曰く「(測定装置を使った取り締まりは)警察官の誤認や判断ミスなどが生じる危険性が否定できない」として当時の状況確認の必要性を指摘。ところが取り締まった警察官の方々の記憶がほぼないので立証が不十分というものでした。

 

「スピード違反をしたのかどうか、したならどの車両か?」という問いかけをそのままサッカーの試合に置き換えるなら「ファウルをしたのかどうか、したのならどの選手か?」というものになります(って無理やり書き換えただけですけど)。

 

さてあるプレーがファウルかどうかは以前にも何回か記事にしています。ファウルを見極めるポイントとして:

1) 相手競技者のプレーへの影響(=相手に思い通りのプレーをさせなかった)

2) 時間と空間

   ●ボールとの距離や位置関係 ●優先順位

3) 因果性

   ●相手競技者のプレー?●自滅?●シュミレーション?

の三つを挙げたこともありました(一つ一つの説明についてはこちら → 「 サッカー審判員よ。今のプレーはなぜファウルなのか?なぜファウルではないのか?それが問題だ(後編) 」)。もちろんよくいわれるように選手の「意図」を見抜くことも欠かせません。ただ今回はファウルかどうかというよりどちらの(選手の)ファウルか?ということが問いかけなので、そこに絞ってお話しますね。

 

と言っても目新しい視点ではなく至極当然のことを主審として見極めるだけのことです。その視点は以下の二つです。

 

① どちらが正当な意図でどちらが悪意なのか?

② どちらが先にファウルしたのか?

 

①は例えばよくあるケースが二人の選手が空中にあるボールを奪い合おうと競り合った時にジャンピングアットだったのかトリッピングだったのか?という見極めだったりしますよね。この場合の見極めは上記2)の「時間と空間」を念頭におけば割と間違わずに見極め可能です。ここにお互いの意図が明確に表れるわけです。「ボールの落下時に間に合わないから」とか「落下してきているボールには届きそうにないから」とかの意図でボールへのプレーを諦めて相手競技者をチャージするとかプッシングするとかトリップするとかは、悪意のプレーです。

 

でも本日のお話は②に絞ります。「えっ?そんな見極め簡単でしょ」とお思いの方もいらしゃると思います。実際そんなに難しくないケースもあります。そんな中でも間違いやすいのがホールディングのファウルの場合です。

 

簡単にいうとどっちが最初に押さえ始めたのか?ってことですよね。もし、ホールディングのファウルがとれない(見極められない)ならまずはそこから出来るようにならないと話になりません。そのような方は手や腕、そして上半身の動きに注意するようにしてくださいませ。さてホールディングのファウルにちゃんと笛を吹けるようになっても、今度はどちらが最初に仕掛けたのかの見極めが必要になります。

 

よくあるケースがドリブルで攻めあがる攻撃の選手が並走して阻止しようとしている守備側競技者のユニフォームを掴んでいる、腕を押さえているという場合。で、この逆で守備側競技者が押さえた場合。いずれの場合も一方の選手がファウルを受けただけなら笛を吹くか、もう少しプレーの様子をみてアドバンテージをファウルを受けた側に認めてプレーオンとするのか・・・の判断だけでOKですけど大抵の場合「やり返す」ことが起きますよね。ファウルを受けた競技者による「反撃(報復)ファウル」です。

 

で、この場合最初にファウルを受けた競技者の認定を間違えると2重にミスを犯したことになります。つまり本当に罰すべき競技者の不当なプレーを見逃し、かつファウルされた競技者に大きな不満を残してしまうということです。

 

この「最初にファウルされたのは自分なのに主審の笛は鳴らないのでファウルし返したら自分のファウルがとられた」という不満は時にさらなる「悲劇」を生むことがあります。つまりインストラクターの方からも指摘あったことなんですけど、この不満によって思わず異議を唱えた競技者にイエローカードを提示って展開です。自分がやられたのに自分のファウルとなった(つまり主審が間違えた)のに、さらに警告という懲戒罰まで受けた・・・踏んだり蹴ったりですね。さらに警告に不満を爆発させ、食い下がり

 2枚目のイエローカードで・・・。もちろんルール上はいかなる場合でも異議は許されず警告の対象となります。でも、最初にボタンを掛け違えたのは主審・・・ではたまりませんね。

 

さてまずは「最初にやり始めた」競技者の認定です。重要なのは:

1)主審のポジション

2)それでもできる死角の見える化

です。

 

1)について。やはり各競技者の動きをよく監視できる位置または角度を保つことが重要です。そのために走る、そして細かく動く、角度を調整する等の手間を惜しまないことです(この辺全然低レベルの私なんかは大きな課題として抱えているわけです)。そして何を見ようとしているのか明確にイメージできている、そしてそれを実際に目の前で起きている現象と照らし合わせる集中力は欠かせません。漫然と目の前で起こっていることを諦観していたり、ボ~ッと見ていてはファウルの見極めはできませんよね。

 

2)は重なった競技者の身体で見えなくなっているファウルを犯している(と推測される)競技者の手の動き等を察知する(で、より良い位置や角度を調整する)というようなことです。そうは言っても100%死角なしなんてのはあり得ません。そこで重要なことが対角線審判法の基本、副審との連動です。この辺は「手のファウルなんかで私から死角になっていると思われた場合はサポートお願いします」と試合前の打ち合わせで確認しておく必要もありますね。

 

でも、今回のケースの様にお互い競り合っている状況でのホールディングにおいては最初にファウル受けている(ホールディングされている)選手がまだプレーしたがっている(ドリブルで突破できそうな等)場合、プレーを止めずに状況を見極めます。ここで声に出して「プレーオン!」としておくのもシグナルとして大切です。それは主審がすでに最初のファウルを認定している、ということの競技者への伝達になるわけです。ですので、副審の方にも「ファウルを受けている選手がまだプレーしている場合は待ってくださいね」と伝えておく必要もあります。

 

このプレーオンの声は「反撃(報復)ファウル」に対する抑止力にもなり得ます。「ファウルを受けているのは分かっているよ。大丈夫、間違えないから」という主審のメッセージです。

 

また4種なんかでは「プレーオン」を聞きなれてない場合もあるので、押さえている競技者に対して「XX番、手を使わない!」と声掛けするのもありです。で、この場合押さえられている(ファウルをうけている)競技者がアドバンテージを得られなかった(次の望むプレーを実行するチャンスを失った)のなら、笛吹いて止めましょう。

 

さてお気づきの通り主審と副審との連動においても、主審から死角になったホールディングが最初に起こった場合には間違った判定とならないように注意しなければなりません。時には副審の助言により勇気をもって間違いを正す必要もあります(それは最終手段だとしても、選手に「被害」が及ぶことは何よりも避けるべきですね)。

 

さてというわけで「ファーストファウル」には2種類あることを覚えておいてください。いわゆる試合を通じての最初のファウル認定=当該試合の主審のファウル認定基準となるべき判定。そして今回のケースにおける、最初にファウルをしかけた競技者の認定です。

 

とまあ、当たり前のことの復習のつもりで書いてみました。さて、どちらにしろ人間は完璧ではないので、間違わないなんてことはあり得ません。あえて言えば一番大きな間違いは「私は絶対に間違わない」と思い込んでしまっているような状態を指すのではないでしょうか?仮にテクノロジーを駆使していても、結局は取り締まる側も判定する側も・・・どちらも人間なのですから・・・。

 

では、I'll be back.