ターミネーター3級審判員の反省部屋

パブリックプレッシャーを感じながら今日も走る。サッカー3級審判員の"I'll be back!"な毎日

試合を。プロデュース。もしくは。いきなりステージ。(後編)

さて第四の審判員です。

 

皆さんがこの記事に興味を待たれるとしたら「今度、第四の審判員やるのだけど何やったらいいの?具体的にどのようにやったらいいの?」っていう動機からかもしれませんね。もちろん、その疑問にお答えすべく具体的かつ実践的なことを記したいと思います。ただやはり第四の審判員も「経験と意識」がものを言います。つまり「やってみて分かる。やる気になって分かる。」ってことです。

 

さてここで第四の審判員に以下のような様々な定義を与えてみたいと思います。

 

a) 何をやっていいのか(やっているのか)分からない人

b) 傍観者・部外者

c) 審判員のひとり

d) 怒られ役

e) マネージャー

f) 小姑

g) 総合プロデューサー

h) 主審や副審になる人

 

a)~c)の場合:

もしあなたが経験も意識もないまま第四の審判員を務めようとしたらa)の人となるでしょう。また交代の手続きやアディショナルタイムの表示やボールの交換以外は椅子に座ったまま試合を観ていたら b)の人としてインストラクターからお叱りのお言葉を頂戴することとなるでしょう。c)であるなら審判チームの打ち合わせにも参加しますし、審判服を着用していなければなりませんし、キックオフ前の挨拶にも参加します。でも実際は4種の試合などでは大会運営本部のスタッフと第四の審判員の境目は曖昧なのではないでしょうか?

 

d)~f)の場合:

協会で割り当てられた試合で第四の審判員を務める場合(で、ほとんど全ての場合第四の審判員がいる試合とは自分より上級もしくは経験やスキルが上の方と審判チームを組む状況でしょう)自分の経験や意識が足りない場合主審や副審の方から未熟さを指摘され怒られることがあるかもしれません。そういう意味でもd)の場合は貴重な機会となるので学びも多いです。e)はある意味そんな自分の役割を意識してフィールドの中を走る競技者としての審判員を支える存在ともいえるでしょう(第四の審判員=走らない人、ただしh)の場合を除いて)。f)は逆に自分より「格上」の方が第四の審判員となった場合、まるでインストラクターから主審や副審ぶりを観察されているかのごとく「ご指導」を頂くケースのこと(これはこれで、貴重な学びの機会)。

 

g)やh)の場合:

g)は理想の第四の審判員像を表しているつもりです。審判員チームはもちろん、運営本部スタッフ、選手、チーム役員と連動しながら円滑な試合運営を行う、またはすべての関係者のパフォーマンスを最大限引き出す役割ということです。なので俯瞰的視野を持ちながら全体を把握するのと同時に、細かな動きや流れに常に意識を向けておく必要があります。舞台の上の「役者」をサポートしながら各スタッフをある意味「指揮」する立場でもあるわけです。h)はそんな「裏方」が代役で舞台の上に突如立つということです。まさに前編でご紹介した第4の審判員のジョナサン・モスさんが 主審のロバート・マドレーさんと交代したように。

 

さてでは経験的実践的な第四の審判員の「やるべきこと」についてです。

総合プロデューサーという立場を意識しながら読んでみて下さい。

 

発揮すべき二つの力=察知力と抑止力

 

前提要件=事前の役割確認および情報把握

 

頻度の高い任務:

1)交代の手続き

2)ボール交換

3)フィールド外のコントロール

4)アディショナルタイムの表示伝達

5)記録

 

まず最初にお断りしておきますと、これから書くことはすべて私の経験と思い付きをまとめたもので体系化された第四の審判員の役割とかではないということです。「もれなくダブりなく」とまではなっておりません。悪しからず。

 

さてまず冒頭に書いた「力」については最後に触れさせていただきます。で、「前提要件」について簡単に。

 

ここでいう前提要件とは第四の審判員として試合で実務にとりかかるまえにやっておくべきことということです。試合前のマッチコーディネーションミーティング(MCM)がある場合はここで関係者と確認を行います。それでもMCMに全関係者が出席しているわけでもないですし、そもそもMCMがない試合の方が多かったりしますのでその場合は第四の審判員自らが運営本部スタッフとの役割分担や「やって欲しいこと&やって欲しくないこと」を明確に伝えておきます。これらについては次の「頻度の高い任務」で詳しく書きますね。

 

2点目の前提要件である「情報把握」は言うまでもなく大会要項の確認を中心とした知っておくべきことの把握です。で、必ず必要なことはチームリスト(登録メンバー表)に記載されている競技者(先発メンバー)と交代要員(サブ)の確認と転記です。まずメンバー表に「おかしな」ところがないか大まかにチェックします。登録された交代要員の数は最大数まで記載されているのに先発メンバーは10名になっているとか、GKが二人先発メンバーになっているとか(逆にGKが登録されてないとか)、同じ番号の選手が二人いるとか等などです。

 

個人情報に紐づいた背番号制はネガティブな文脈で語られることが多いですけど、サッカーにおいてはまさに番号が個人を特定する大切な情報であり手段なわけなのでこの番号を如何に正確かつスムーズにインプットしたりアウトプットしたり出来るのかが第四の審判員の実務の巧拙に関わってきます。

 

ではいよいよ「頻度の高い実務」について。

 

1)交代の手続き:

第四の審判員として試合中に一番注目されるのは「交代の手続き」を行っている時になるでしょう。ここではまず「致命的な」間違いを起こさないことに留意。例えば競技会規定に定められている交代の数を超えて交代を行ってしまったとか、絶対にフィールドに入れてはならない選手(=再出場が認めれていない試合での交代して退いた競技者。または退場させられた競技者。もしくはチームリストに記載されていない競技者。)を入れてしまったなどです。ではここから交代の手続きを時系列に箇条書きします。

 

 ①察知する=試合中は常に両ベンチの動きに注意を払い続け交代の「兆候」を察知する。交代の準備に入った選手はベンチから出る前に特定(推測)できるので番号を目視し提出されたチームリストにある交代要員の番号と事前に仮の照らし合わせを行う。

 ②照会する=交代の要請が行われたら事前の役割分担に沿って選手の確認を行う。例えば写真付き選手証と交代しようとする選手との照会を本部が行う(ために選手を本部に誘導する)。第四の審判員はINする競技者とOUTする競技者(の番号)が記された交代カードにある情報(番号)とチームリストにある番号とを照らし合わせる。そして選手のユニフォームにある番号と交代カードの番号を最終確認する。

 ③チェックする=用具の確認。これが終わっていないのに主審に交代のシグナルを送ってはならない。

 ④表示する=実はこの交代ボードの表示が一番手間がかかりプレッシャーがかかったりするのであります。通常我々が担当する試合で使用する交代ボードは手動式で1~9の数字を作成するものです。黄色など1色でしか数字を表示できないのでこの場合OUTになる競技者の番号のみを表示することになります(コレヲ、マチガエルト、コウタイガススマナクナル)。この番号表示の準備に手間取っていると第四の審判員が交代を遅らせているとなりかねないので手早くやる必要があるわけです。交代が片方のチームから一人だけならまだしも、同時に複数の選手の交代が要請されたり、両方のチームから交代が要請されたら・・・パニックになってはなりませんね。

 ⑤シグナルを送る=④の表示がすでに主審に対する交代のシグナルとなります。交代ボードを持って交代する選手を連れてハーフウェーラインのA1の動きの妨げにならない位置でアウトオブプレーになるのを待ちます。この時重要なことは「交代はなによりも優先される」の原則に沿っていかなるアウトオブプレーの状況でも第四の審判員は交代ボードを掲げます(もしくは主審に声をかける)。「ここはクイックリスタートになりそうだな」と忖度して交代のシグナルを出すことを留保してはなりません。

 ⑥入れ替える=OUTの選手の番号を表示する前後から実際に交代が行われるまでの間にOUTになる選手がフィールドのどこにいるかが把握できていれば上出来です。必ずしもフィールドの中にいない(負傷などですでに出ているケースもある)かもしれませんし、必ずしも本部側のハーフーウェーライン付近からOUTの選手がフィールドの外に出るとは限りません。とにかく複数のパターンを念頭に置くべきですね(私自身、主審の承認を得て反対側のタッチラインから外に出た選手に気付かず、フィールドの中に入ろうとした選手に「待て」の指示を出したこともあります)。いずれにしろ状況の正確かつ素早い把握と主審との連係プレーが大切なわけです。

 

 ⑦区別する=交代して終わりではなく交代して退いた選手がビブスなどを着用しているのか確認をします。そのままユニフォーム姿のままでいるなら注意を与えすぐに着用させます。

 

 上記が大きな交代の流れです。とにもかくにも察知するということが大切で、この任務などに限ると酒席でグラスのビールが少なくなったら注ぐとか、飲み物がなくなったらオーダーするとかの気配り上手の人が第四の審判員には適任だな~と毎度思ってしまいます。ちなみに私は全く気が利かない輩です。

 

2)ボール交換:

たとえマルチボールシステムでもボールは常に主審の管理下にあります。なのでボールの交換は常に主審の承認によって行われ交換の管理は第四の審判員によって行われます。マルチシステムではない無い場合がほとんどだと思いますので交換するボールは必ず第四の審判員以外のスタッフが勝手にフィールドに入れたり、近くでスローインになった場合に選手が勝手に交換用のボールを使わないようにコントロール化に置く必要があります(つまりは自分の手が届く範囲かつ他の人が手を出しにくいところに置いておくということです)。お気づきのように本部スタッフにはあくまでボールの交換は第四の審判員が行うことを事前に周知徹底しておきます。またボール交換の理由は欠陥が生じたからというようなことは稀で大抵はボールがすぐには取りに行けないところに行ってしまったことがほとんどですよね。だから第四の審判員はたとえ自分に近いタッチラインからボールがフィールドの外に出ても自分でボールを取りに行こうとしてはいけません。主審がボール交換のサインをしても交換用のボールから離れていては交換が出来なくなるからです(なので本部スタッフには第四の審判員は「玉拾い」はしないことを事前にこれまた周知しておきます)。

 

このボール交換も察知力です。ボーっとしていると第四の審判員が時間を浪費することになります。かと言って主審のサインがないのにベンチからの声でボールを交換するようなことを行ってはだめです。負けている側のチームは早めのリスタートを望んでいますのでボールがフィールドから離れたところでまで行ってしまった場合、時間帯によっては第四の審判員は交換用のボールを手にしていつでも主審のサインによってボールを供給できるようにポーズを作っておくこともベンチのフラストレーションを和らげることになることもあると思います。あとで書きますけどいわゆる「ベンチコントロール」というのは、言葉だけで行うのではないのですね。

 

3)フィールド外のコントロール

フィールドの内外にかかわらず試合に影響を及ぼすものすべては常に主審の管理・監視下にあります。その中で第四の審判員は特に「外」の管理をサポートします。

 

この「外」の管理対象を分かりやすく三つに分けます。

 i) テクニカルエリア内の戦術的指示者

 ii) テクニカルエリア内の交代要員およびチーム役員

 iii) アップエリア内の交代要員

 

まずテクニカルエリアとはベンチ(座席部分)も含む空間の総称であることを理解した上で原則的に交代時、アップ時、主審の承認時以外は交代要員およびチーム役員は常にこのテクニカルエリア内に留まっていなければならない存在であることを肝に銘じて下さい。逆に言えば第四の審判員はこのエリアの外に登録メンバーが勝手に出ないように管理する必要があるわけですね。では、管理対象について順番に何を管理するべきなのかを書きます。

 i) テクニカルエリア内の戦術的指示者:

 競技規則にあるように「その都度ただ一人の役員のみが戦略的指示を伝えることができる」わけなので二人以上の役員が指示を伝える状況は放置してはなりません。一番常に注意すべきは二人以上が立ち上がっている状況を作らないことです。重要なことは二人以上が立ち上がる前に「抑止」することです。試合中は常にテクニカルエリアに向けて:

1)目線を向ける→2)近づく→3)仕草(例えば手のひらを向けて「やめて下さい」の意思を伝える)4)言葉で注意→5)主審を呼ぶ(まあ、異議や暴言でない限りはいきなり5)とはなりませんけど)

の順番でいい意味でのプレッシャーをかけるのです。とにかく「ただ一人」の原則を守らせている状況を維持することで「規律」ある行動をベンチ役員にある程度守らせることができるわけなので、ここで手を抜かないようにしてください。ここでのキーワードはいきなり対峙して不要な軋轢を生まないように「友好的に抑止する」ということです。

 

異議以上に起こりえるのはこの指示者の人数とテクニカルエリアの外に出てしまうということなので、エリアの外に出ての指示とならないように第四の審判員は目を光らせていて下さいね。特にエリアはマーカーコーンで示されている場合には境界が目に見えていないので仮想のラインを念頭に戦略的指示者がわずかでも足を踏み出したなら1)~4)のステップでエリアの中に留まるようにマネジメントします。この点は試合中継続して規律を守ってもらうためには非常に重要で「まあ、いいか」ってことを繰り返していると抑止力を完全に失ってしまいます。

 

一方で柔軟性も失わないようにマネジメントしてみてください。チームによっては戦略的指示者は自陣でのコーナーキックの場合など担当(例えばGKコーチなど)が異なっていて、その場合一時的に二人の指示者が立ち上がっている状況が生まれます。この時今まで指示を出していた役員がベンチに戻ろうとしているなら着席するまで見守ります。この瞬間だけを捉えていきなり口頭で注意を浴びせると不要な反発を生んだり、肝心なときに(異議スレスレの発言時など)4)のステップに進んでも効力半減となりかねません。これも察知力のひとつかと思います。

 

ii) テクニカルエリア内の交代要員およびチーム役員:

交代要員はビブスを着ていますか?交代要員が戦略的指示を出していませんか?医療担当のチーム役員が主審の承認を受けてもないのにテクニカルエリアの外に出ていませんか?そして試合中は常に言動に注意を払い、主審に伝えるべき言動があった場合には誰が具体的にどのような発言や行動をしたのかを記録(記憶)します。この場合あくまでもファクト(事実)であって解釈と混同しないようにします。

 

iii) アップエリア内の交代要員

交代要員は大会規定で指定されているエリア内で規定された方法(=ボール使用の可否)でのみウォーミングアップすることを許されています。このアップエリアもマーカーコーンで示されていることが多く常に監視しておく必要があります。そして重要な任務としては交代要員はウォーミングアップをするためだけにテクニカルエリアの外に出ることを許されているわけでから、アップエリアからの応援、観戦は許されません。これらの事象があれば即刻ベンチ役員に止めさせるように指示します。この辺は第四の審判員のポジションから離れていて直接マネジメントすることが難しい場合もあるのでA1との連携プレーも大切かと思います。

 

さて監視対象ではないのですけど、「フィールド外のコントロール」の重要な項目としてぜひとも本部スタッフの動きにも注意してください。例えば担架は主審の承認があった場合にのみフィールドに入れます。医療担当役員の入場を認めた(シグナルを出した)だけなのに担架スタッフが自分たちで判断してフィールドに入るということがないように主審のシグナルを正確に本部スタッフに伝達する指揮者を務めることも第四の審判員には求められるのです。

 

4)アディショナルタイムの表示伝達:

 ①主審と事前にシグナルを確認(この時アディショナルがない、もしくは1分未満の場合のシグナルも忘れず確認する)。

 ②終了2分前頃(例えば45分ハーフなら43分ごろ)ハーフウェーラインに近づき主審からシグナルを受ける(=シグナルを同じシグナルで送り返してタイムを確認する)。

 ③その後すかさず主審からシグナルされた時間を表示したボードを用意しハーフウェーラインに近づき正面腰の高さでボードを表示し主審と表示時間に間違いないか最終確認する。

 ④45分近くになったらハーフウェーラインに近づき位置し45分と同時に表示ボードを掲げる。

 ⑤この時交代の要請と重なったら、もちろん交代を優先する。交代手続き完了後に口頭でチーム役員にアディショナルタイムを伝える(原則負けているチームから)。

 

5)記録:

必ず普段の記録用紙とは別に「第四の審判員 記録用紙」を持参しすべての記録をとります。用紙はネットで検索すればダウンロードできます。記録用紙とは別に競技者、交代要員、チーム役員の言動を記録するための用紙もあっていいと思います。また交代カードがバラバラにならないようにクリップなども使用して管理するようにします。

雨天時には防水対策を怠ると後々困ってしまうので色々と工夫してみて下さい。

 

以上が「頻度の高い任務」となります。もちろんこれで全てではありません。

 

ここまでお読みいただけたなら冒頭の「発揮すべき二つの力=察知力と抑止力」については特に説明しなくてもお分かりいただけるかなと思います。

 

今回の記事で少なくとも第四の審判員は座っているだけの人でないことはお分かりいただけたかと思います。というか、ある意味気を抜く暇はありません。そんな役割の中で第四の審判員を務める醍醐味は自分より格上の審判員の方の審判ぶりを審判チーム内にいながらより俯瞰的な広い視野で観察できることや、通常なら審判を務められないより上のレベルの試合を担当できることでもあります。そして次回、第四の審判員になったら自分が主審になった気持ちですべてのプレーをジャッジしてみてください。実際本部前で起こりそうなファウルやタッチラインジャッジのアシストを求められる場合もあります。

また主審の代役でいきなりステージ、ということになれば今までの主審の判定との整合性(一貫性)も求められるという難題にも直面します。ジョナサン・モスさんのようにいきなり主審となったら審判業務のフルメニューですね。

 

如何でしょうか?第四の審判員のイメージが変わりましたか?ぜひとも私が気づいていないことや経験していないことなど多くのアドバイスを頂ければ幸いです。

 

では、I'll be back.