ターミネーター3級審判員の反省部屋

パブリックプレッシャーを感じながら今日も走る。サッカー3級審判員の"I'll be back!"な毎日

プロフェッショナルレフェリーの年収とサッカー審判員のレベルを上げる効果的な方法

さて、前回「サッカー審判員全体をレベルアップする秘訣」について書きますね、なんて偉そうに予告しました。暴論にちょっとだけお付き合いください。

 

たまに選手やベンチや観客席から「審判資格持ってんのかよ!」とか「あんた何級!」なんてヤジられてしまったという話を聞くことがあります(私自身は言われたこと(聴こえたこと)はありませんけど)。

 

そうなんです。ならば、4級審判員からして少なくとも公式戦を担当できる協会登録の審判員になれる試験(認定)のハードルをいまよりずーっと高くすればいいのです。これが「秘策」です!こうすればモチベーションの低い審判員や「下手な」審判員が公式戦を担当することはなくなります・・・ってそう簡単に事は進まないでしょうね。

 

まず試験(認定)のハードルを上げたとしても判定や審判のマネジメントに対する異議や不満が無くなるわけではありません。第一、そんなことしたら「面倒くさい」こともあるし時には「不快な思い」をしてストレスを感じるサッカー審判員をやろうとする方の数が激減するでしょう。

 

これだけだと、「あんた真面目に考えていないだろうと」言われそうなので、サッカー審判員全体のレベルアップについての戯言をあと三つほど。

 

1番目はやはり若い人たちの間で今以上にサッカー審判員の活動についての魅力や「報酬」についての認知を強化し、優秀な人材(特に中学生、高校生を中心としたサッカー競技者の中から)やモチベーションの高い若手(他の競技での活動者も含め)を数多くリクルーティングできる戦略的なプロセスが必要だと思います。具体的なリクルーティング戦略の一つとして例えば「マーケティング計画」のようなものについて書こうとするとそれこそ10回ぐらいの連載になりそうなのでまたの機会に。

 

2番目は先に書いた「報酬」について。これはお金だけのことではありません。目的は審判員活動に対するモチベーションアップなので「Jリーグの試合を年に何回かはスタジアムで無料で観戦できる」とか「無料アプリから有名選手が中学、高校生時代のプレーや悩みを語る限定動画を独占的に視聴出来る」とか「18歳未満なら審判員ツールの購入がかなり割安になるクーポンが入手できる」とか「年間何試合以上公式戦を務めると、その回数に応じて特典が与えられる」とか・・・キリがないのでやめときます。

 

あれ?でもこれって1番目の内容とかぶってますね。なので、ここは実はもとに戻って「お金」が重要です。「優秀な人材をなるべく費用をかけずにリクルーティング・・・」って無理ですね。企業活動と同じく直接的に支払う報酬も間接費もやはり投資しないことには始まりません。

 

今から数年前にインストラクターの方からJリーグのPR(プロフェッショナルレフェリー)の方の年収が1千万ということを聞きました(実際はもっと高いのではと)。その方は「凄いよな」と仰ってましたけど、私は心の中では「えっ~割に合わないな~」と思いました。同席していた他の審判員の方々も同じ感想だったのではと推測します。あれだけのプレッシャーや「バッシング」を受けつつ、怪我などのリスクも高い不安定な職業だと思います。

 

逆に「あの判定ぶりで、そんなにもらっているのかよ~」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。でも、それはとりあえず関係なしです。なぜなら「あれで、そんなにもらえるなら私も・・・」とはなりませんよね。あのJリーグの舞台に審判員として立つということはある意味、選手としてフィールドに立つ以上に困難なことかもしれません。で、その結果は・・・いいプレーや得点したらサポーターから声援をもらえる選手達と違い、時には正しい判定をしても非難されるサッカー審判員・・・コンナ ワリニアワナイ コト ヤリタクナイノガ フツウ。

 

というわけで、プロフェッショナルレフェリーの報酬ももっともっと高くすべしが私の持論ですけど、1試合あたりの3級審判以下の報酬も破格にすれば優秀な人材が集まってくる・・・というわけでもなさそうです。

 

では3番目に審判がやりやすい試合環境を作り出す・・・というのはどうでしょう?具体的には特に審判員活動のスタート地点になりやすい4種のカテゴリーにおいてチーム関係者や観客の間でリスペクト精神を醸成して審判員に対する不満を感じても一緒に子供たちとサッカーをつくり上げる仲間として暖かく見守る・・・う~ん、無理か。でも少なくともチームによってこのリスペクトの精神が浸透し実践されているチーム(と帯同する観客)とそうでないチーム(と帯同する観客)の極端な差があることは事実です。やればやれないことはない・・・しかし難しい。

 

思うにネットで散見されるJリーグを中心としたサッカー審判員への不満は、時には「ハラスメント」のレベルを超えていると思われるものもあります。何をもって「ハラスメント」というのかはいわゆる「パワハラ」とか「セクハラ」と同じ構図と思っていただければと思います。つまり有利な立場を利用して相手の人格までも攻撃したり尊厳を傷つけたりというような行為が「ハラスメント」です。

 

でも通常は例えば「サポーターハラスメント」なる言葉や概念は存在しません。これは「ハラスメント」は社会的組織的関係性が明らかでかつ、特定される個人間での事象であるからです。つまり社会的組織的関係性とは上司と部下とか、医者とその患者とか、教授と生徒とか、指導者と選手とか・・・という意味です。それにプラスしてその当人の一方に「有利な立場」が存在しないと成立しません。「有利な立場」とはその個人を攻撃しても自分が反撃を受けたり不利益を被ることはない(逆に相手には与えることが出来る)という意味です。

 

この相手から反撃を受けることや不利益を被る可能性がないと人はより不満を外に表し攻撃的になります。サッカー審判員とは「遠くの存在」であります。観客と審判員の間に何か個人的な繋がりがあれば、人格までも攻撃されることはありません(経験者談)。「近く」の上司から理不尽な扱いを受けてもいきなり「あんたサイテー」なんて言う強者はいないかと(心の中で呟いたとしても)。なので「個人的な繋がりのない(場合の)」+「絶対反撃されない」存在であるサッカー審判員や例えば接客業の方々は、ときに観客からときにお客さんから「ハラスメント」を受けます。まあ、多くの観客の方々はマナーや節度ある場合がほとんどですけど、この「ハラスメント」の概念を「リスペクト」の概念と対にしていただきサッカー競技に接していただければ幸いです。

 

なんか、迷走した感がありますけど、結局簡単にサッカー審判員のレベルを上げる効果的な方法(施策)など存在しないという結論に至ったわけであります。

 

なので、やはりまずは隗より始めよ。下手な自分をちょっとでも向上させるべく次回はサッカー審判員としての最重要項目とも言える「見る力」について書きます!

 

では、I'll be back

 

 

 

 

 

サッカー審判員 3つの力

さて、あまり間を開けないで書いていこうと思っていたらはや1週間以上経過。その間毎日「リストラ」に取り組んでいました。

 

リストラっていうと悪い響きがありますけど、自分から自分の意思で自分自身を「リストラ」=「再構築」しようってことです。私の場合で言えば「下手な」サッカー審判員から抜け出すこと。通常、ある程度の年齢以上になってからは自分の全体の伸びしろを考慮して少しでも長所を伸ばすことに比重を置きましょうというのが定石ですけど、サッカー審判員としての基礎力を伸ばすことが必須な私にとっては逆に短所をまず冷静に見つめそこを改善しないわけにはいきません。

 

なので「上手く」なるには何の「力」が弱いので伸ばすべきなのか?今までの実戦の中で得た経験や様々な方々からのアドバイスをもとにすると私が伸ばすべき「審判力」は以下の3つに集約できると自己判断しております。

 

① 見る力

② マネジメント力

③ コミュニケーション力

 

これ、ほんとうに私自身が感じていることなので全ての人に当てはまることではないと思います。またもちろん以上の3つの力だけを伸ばせば「上手い」サッカー審判員になれるというわけではないでしょう。しかし時間と労力が有限だとするとやはり優先順位をつけて取り組まざる得ません(=「やるべきこと」と「やらないこと」を決める。もしくは「やることを絞る」。これが「戦略」ってことですね)。

 

本当はインストラクターの方にご指導いただきながら自分の現状の審判力や課題を客観的に捉えて今後どうあるべきか?あるべき姿にどのように向かっていくべきか?等々を適切なプログラムのもと実行していくべきなのでしょうけど・・・私のようなポンコツ審判員にそんな時間を割いてくれる方はいません。ので、自己流で行きます。

 

まずは3つの力について・・・の説明は次回に。いやその前に自分のことをさておき、サッカー審判員全体のレベルアップの「秘策」についてお話させてください。

 

では、I'll be back.

サッカー審判員のリストラ

気付けば前回の記事から1か月以上経ちました。先々月に体調管理ができておらず珍しく発熱したこともあり、実戦の数も少なめに抑えておりました。それでも数少ない試合を通じていつになく考えらさせられることが多かったです。

 

今まで色々なことについて書いてきたものの次の問いには答えが出せずにいます。

 

① 自分のような下手な審判員は何をなすべきか?

② とうにシニアと呼ばれ始める時期は通過して今後審判員としてどのようにあるべきか?

 

①についていえば何をもって「下手」というかは追々書くとして、やはりこの問題は避けて通れないし、単なる精神論や経験の積み重ねだけでは解決(改善)できないように思えるわけです。

 

下手、上手いで言えばサッカー審判員は以下の4種類に分類できるかもしれません。

 

 1)モチベーションも高くサッカー審判員としても上手い

 2)モチベーションは低いけどサッカー審判員として上手い。

 3)モチベーションは高いけどサッカー審判員として下手。

 4)モチベーションも低くサッカー審判員として下手。

 

上級への昇級を目指し続けるなら1)であるべきです。では4)のような場合サッカー審判員になってはダメだとしたら・・・単純に審判員の人数が足りなくなってしまうでしょう(特に4種以下のカテゴリーにおいて)。2)は才能に恵まれているということですね。年齢が若ければ若いほど将来へ向けてのポテンシャル人材と言えるかもしれません。でも2)の人達は加齢するほど4)に向かっていくことになるようにも思います。さて私自身はどこに属しているかと言えば3)であったはずですけど・・・このままいくと4)になってしまう恐れがあります。モチベーションとは好きとか楽しいという感情であると言えます。ただ「下手の横好き」という趣味の範疇とは異なり、大なり小なりのプレーシャーと他者からの評価が常について回るサッカー審判員は「下手な」ままですとやがてモチベーションも低下していく・・・まさに今の私のように。

 

記事を書くことは蘊蓄を語るのと同義です。「(他人に)蘊蓄は聴かせるけど(自分は)下手な審判員である」というのでは説得力にも欠けます。蘊蓄を語ることで上手くなることは決してありません。それを数年続けても同じことです。何かについて上手くなるには具体的な気付きと行動が必要です。そして上達は徐々にゆっくりとではなく急激な上昇曲線となって現れるものです。その曲線の上昇率はすべての物事の習得と同じように若い人ほど高いように思います。

 

いくら競技規則について語っても(ちなみに私は規則至上の原理主義者ではあ~りません。メチャクチャ大雑把なことは記事を読んで頂けると分かると思います)自分が経験から得たことを語っても(明らかに審判員としての「場数」も足りません)それがサッカー審判員として下手な私が上手くなっていくことには繋がりません。それでも語るとしたら・・・それは上記②に繋がっていくことになるのかもしれません。

 

で①の問いにもどるわけです。「何をなすべきか?」これに対する答えは禅問答のようですけど「何か」をやることでしか得られないではと思うわけです。なので、これから数か月(もしくは1年)で「上手くなりたい!」ので「何か」やってそれについて書きます。

 

でも「今さら」っていう気持ちも正直あります。弱気にもなります。

 

そこで②について。サッカー審判員でもサラリーマンでもJリーグプレーヤーでも加齢を重ねると実労働の年数はどんどん少なくなります。これは誰にとっても避けられません。また体力や気力も落ちてきます。その逆に変なプライドや虚栄心は大きくなっていく人が多いようにも思います(まさに私自身!)。そうすると「下手」(=「仕事が出来ない」)なのに「威張る」(=職位や権限や勤務期間にすがる)という周りに悪影響を与える存在になっていくのかもしれません。

 

なのでどんな組織においても若手により多くの機会を与えお金も時間も投資することは間違っていないと言えます。いやそうしないと組織は衰退していくことでしょう。サッカー審判員もそうです。より若い人(高校生や大学生)のモチベーションが高まるシステムにすべきですし若い人たちがより上級へ早めに移行できるようにサポートすべきでしょう。

 

その上での、自分自身が「リストラ対象」であるという前提での、②の問いかけです。

 

またまた長くなりましたけど、これから書くことがサッカー審判員として「上手く」なりたいすべての方々にとって爪の先ほどの気づきになればいいな~と思ってます・・・なんて、これまた虚栄心ですね。素直になれなくて・・・まずは自分が上手くなりたいのです!

 

では、I'll be back.

 

 

 

 

 

サッカー主審の居場所 再び(ちょっと辛口) 2018FIFA ワールドカップロシア大会 雑報その⑧

フランス代表対クロアチア代表の決勝戦。結果、シャンゼリゼ通りをパレードしたのは

フランス代表でした(まあ、クロアチア代表がパリに凱旋するわけないか)。

 

さてこの試合の主審は…イケメン、アルゼンチンのピターナ主審です。さてピターナ主審この試合で見事なポジショニングと判定を連発・・・とはいかなかったというのが私の正直な印象です。まず本大会におけるピターナ主審のポジションの取り方についてはこちらの記事をご覧ください → 「 サッカー主審の居場所 2018FIFA ワールドカップロシア大会 雑報その⑥ 」。

 

やはり、ピターナさん位置取りがよくなかった。パスサッカーのクロアチア代表の邪魔にさえなっていたような・・・。でも、今回注目したのはあのフランス代表の1点目の起点となったクロアチア代表ブロゾビッチ選手によるフランス代表グリーズマン選手に対するファウルです。これには色々な見方が出来ると思いますけど、スロー再生画面を見る限りグリーズマン選手のワザあり、と言わざる得ないプレーだと思います。つまり「ファウルをもらいにいっている」もしくは「ファウルに見せかけている=シミュレーション」というわけです。

 

ここでのファウルはいわゆるトリッピングということですけど、身体的接触の有無でのファウルか否かという判断は間違っています。つまり「つまずかせる、または、つまずかせようとする」という行為が不用意に、無謀に、または、過剰な力でなされたのかどうかが見極めのポイントです。なので接触が不用意以上だったのか?接触がなくてもその行為(や意図)が不用意以上だったのかが判定の基準となります。

 

ただこれはファウルを犯した競技者だけを監視することになるので、一方で被ファウル競技者の動きや意図も見極める必要があります。なので主審はトリッピングが起こったなら(またその他のファウルでも):

 

① 不用意だったのか?無謀だったのか?過剰な力だったのか?

② 相手競技者の足や体に意図せず(もしくは逆にワザと)接触して(接触しそうになって)つまずいたのか?

③ 意図しない(=相手競技者の動きとは関係なく)「自爆」だった(自分で転んだ)のか?

④ シミュレーションだったのか?

 

を瞬時に見極め笛を吹く吹かないを決めなければなりません。

 

今回のブロゾビッチ選手によるグリーズマン選手に対する「トリッピング」は限りなく④に近いように思えます。ブロゾビッチ選手をボールを持った自分に十分に引き付けておいてまさにブロゾビッチ選手がボールを奪おうとして足を出そうとした瞬間にボールを前に出し、ブロゾビッチ選手の足が出た瞬間に後ろにむかって両足を引くように倒れている・・・はっきりいってスーパープレーです。グリーズマン選手恐るべし。

 

これはピターナ主審でなくとも笛吹きますね。でもFIFAワールドカップの決勝戦に選ばれた主審だからな~。グリーズマン選手の上をいく見極めをして欲しかった。カギはやはりポジションと予想です。この時もなんか微妙な距離と角度だったような。そもそもペナルティエリアに近い位置でグリーズマン選手がボールを持った時の意図を十分意識して監視していたのか・・・それが予想するということであります。

 

で、まあ後はフランス代表の2点目となったPKを与えたペリシッチ選手のハンドボールですね。これをまたVARに頼ったピターナさん。あの角度とボールの速度では難しかった?う~ん、そんなことは・・・。我々の場合ですとVARになんか無いですから副審との確認や隠れシグナル(ペナルティエリア内での守備側競技者の反則には通常副審はフラッグアップなどしない、つまり判断はすべて主審の情報だけで行うので)を使い多角監視を図るしかないです。

 

ここでの最大の監視ポイントはボールが腕に当たったのか?ボールに向かって腕が動いたのか?・・・などではなく腕の位置の「不自然さ」にあります。そこに主審が「未必の故意」を感じることが出来るのかどうかが判定の分かれ目になるのです。ピターナ主審、だから動体視力の問題ではないのですよ。

 

このハンドボールを見極められなかったピターナさんが決勝の主審って・・・。と毒づきながら、それでも実際は難しいよな~と納得してしまうのが「審判仲間」という同族なわけです。今後のサッカー審判員のあり方を最後まで考えさせられた今回のFIFAワールドカップでした。

 

では、I'll be back.

 

 

 

 

 

 

いわゆるハイキックの見極めについて 2018FIFA ワールドカップロシア大会 雑報その⑦

いきなりですけど競技規則第12条 ファウルと不正行為の以下の条文を抜粋。

 

2. 間接フリーキック

競技者が次のことを行った場合、間接フリーキックが与えられる:

●危険な方法でプレーする。

(中略)

危険な方法でのプレー

危険な方法でプレーするとは、ボールをプレーしようとするとき、(自分を含む)競技者 を負傷させることになるすべての行為であり、近くにいる相手競技者が負傷を恐れてプ レーできないようにすることも含む。

主審が相手競技者に対して危険でないと判断した場合、シザーズキック、バイシクルキッ クは行うことができる。

 

今回のお題は「ハイキック」の判定についてです。巷でも議論のあった7月12日に行われた準決勝のクロアチア代表対イングランド代表の試合でのペリシッチ選手のゴールについてです。ご覧になっていない方はNHKの2018FIFAワールドカップのサイトにある動画をご覧ください。後半23分(68分)の映像です。→

ライブ・見逃し|2018 FIFA ワールドカップ|NHKスポーツオンライン

 

さてこのゴールまず左サイドのラキティッチ選手からサイドを変える右サイドのブルサリコ選手へのパスが起点となり、そのブルサリコ選手からペナルティエリア中央ゴールエリアに近いところへ絶妙のアシストパスが入ります。そのパスをイングランド代表DFのウォーカー選手がヘディングでクリアしようとするのですけど、その頭をちょうど跨ぐようにペリシッチ選手が背後から詰めて左足のアウトステップでボールをキックしてゴールにボールを突き刺しました。

 

上記の文章だけ読むと完全にペリシッチ選手の「ハイキック」の反則でイングランド代表に間接フリーキックが与えられる事象だと思います。

 

ではゴールを認めた、トルコのCAKIR Cuneyt主審の誤審でしょうか?いえいえ、私は以下の理由でチャクル主審の判定は正しかったと思います。ただ、自分が主審を担当していてあのプレーに対して確信を持ってノーファウルと判定出来たかと言えば・・・自信ないですね。

 

では「ハイキック」に対する判定で考慮すべき四つのポイントです(もちろん判定根拠は身体的接触がなければ冒頭の競技規則の条文に求められるべきですね)。

 

①ボールの高さ

②ボールへの優先権

③相手競技者への影響

④危険な方法の有無

 

まず①。例えば腰を基準としたときにそれより低い位置にあるボールに対してヘディングでプレーしようとすることは危険な方法でのプレー(=自らを負傷させる恐れがある行為)と認定されることがあります。この場合いくら相手競技者のキックが頭と同じ高さやそれより上にあっても「ハイキック」とはなりません。どちらの反則かを取り違えないようにするためにもボールの高さの見極めは必須ですね。

 

さて、今回の場合ボールの高さはどうでしょうか?まずゴール前でボールをクリアしようとしたイングランド代表のウォーカー選手はダイビングヘッドを行っています。その高さはヘディングでの競りで頻繁に見られる飛び上がらないと相手競技者より先にボールに触れることができない、というような高さではないです。では低すぎる、つまりヘディングでのプレーは危険であるというような高さであるかといえばそうでもないです。なので今回のウォーカー選手のヘディングでのプレーは反則にはなりません。ペリシッチ選手の左足はそのウォーカー選手の頭上スレスレを右から左に動いているのです。

 

次に②。今回のペリシッチ選手のキックの判定で最も重要なポイントのように思われます。再生画像を見る限るペリシッチ選手は見事にウォーカー選手より先にボールをプレーすることに成功しています。スルスルと背後から近づき動く獲物を一発で仕留めたという感じです。仮にウォーカー選手の頭とペリシッチ選手の左足が同時にボールに触れる状況であれば、笛を吹かざる得ないと思います。

 

③について。これは一言でいうなら競技規則にある「近くにいる相手競技者が負傷を恐れてプ レーできないようにすること」ということです。つまりハイキックやその他の危険な方法でのプレーで相手競技者がビビってプレー出来なかった、プレーの勢いが弱まった、プレーの精度が低くなったという抑止の影響があったかどうかがポイントです。さて今回の場合、ヘディングしようとするウォーカー選手はペリシッチ選手のプレーでその動きを抑止された様子は見られません。ペリシッチ選手が背後からプレーしたので視界にも入ってなかったですし、ボールに集中していたことも大きかったと思います。

 

さて最後に④についてです。「危険な方法の有無」の観点で言えばペリシッチ選手の左足でのキックは正当な高さでのヘディングプレーを行おうとしているウォーカー選手の頭上を跨ぐかのように動いている、しかもギリギリ接触するかしないかの位置関係なのでやはりペリシッチ選手のプレーは危険な方法だったとも言えます。ただ一方でかなり高いレベルで危険を回避できているプレーとも言えます。

 

とまあ、このように①~④のポイントを振り返ってみると「あれ?やはりペリシッチ選手のプレーは反則だったか?」と思わざる得ない部分も多々ありますね。それでもなぜノーファウルとしたチャクル主審の判定は正しかったと言えるのかは、やはり②の優先権に尽きると思います。ペリシッチ選手のプレーは本当に素晴らしく、いわゆる制空権を確保できています。制空権という言葉の定義を「ある空域で敵に妨害されることなく,自由な作戦行動を可能とすること。」とすればまさにペリシッチ選手のプレーがそれであると断言できます。それは同時に「敵を妨害していない行動」とも言えます。そして高いレベルでギリギリの競り合いを行っていた当該試合では相手に対する負傷の危険を回避し同時にボールをコントロールするというペリシッチ選手の卓越したプレーの精度に応えチャクル主審はサッカーの魅力を最大限に引き出す判定を行ったのではないでしょうか?

(このゴールが認められなかったら今夜これから行われるフランス代表対クロアチア代表の決勝戦も実現しなかったかもしれない、とても大きな判定だったことは確かです)

 

さて、このように書いたもののやはり自分が担当した試合だと笛吹くだろうな~。ともあれ自動的にハイキック=反則としないように研鑽を積み、試合経験を積み重ねましょう。

 

では、I'll be back.

 

 

 

 

 

 

サッカー主審の居場所 2018FIFA ワールドカップロシア大会 雑報その⑥

ベスト4に向けての戦いも見応えたっぷりでした。

 

さてウルグアイ代表対フランス代表の主審はアルゼンチンのPITANA Nestoさん。

注目したいのがピターナさんのポジションの取り方。特にペナルティエリアに近い、いゆるバイタルエリアおよびセンターサークル付近の位置取りです。

 

ピターナ主審この付近でプレーに巻き込まれてしまっているんですね。

 

つまりパスしたボールに:

 

当たる

またぐ(股下を通らせる)

よける

 

という行動を取っています。完全にパスコースに入ってしまっているんですね。

 

ピターナ主審の動きには三つの特徴があります。

 

①サイドステップをほとんど使わない

②(周辺の選手の位置を確認するために)首を回しながら見たりしない。

③ボールを保持している選手に(距離を置きながらも)静止しその様子を見ている(≒パスコースに入っている。)

 

①はバイタルエリアで争点から目を離さずポジションを調整するには重要なテクニックです。

②は次のプレーを予想するためにはこれまた重要なテクニック。

③ボールを保持している選手に相手競技者のプレッシャーがないならボールは争点ではないので・・・監視目標が違うと思います。

 

ワールドカップの決勝トーナメントの主審を務める方には釈迦に説法となりますけど、ウルグアイ代表対フランス代表の試合を観る限り結果は「悪い位置取り」だったと言わざる得ません。

 

なによりもボールに当たると主審としては「やってしまった~」と心で叫んでいるはず。また、当たらなくても避けたり股の間を通しても背後から「邪魔だよ!」と選手に叱責を受けます(コレガ ジョシ ノシアイ ダッタリスルト イエデ シカレルノヲオモイダシテ ヨケイニ イバショノナサヲ カンジル)。まあ、このような場合は素直に選手に謝りましょう、試合中に。で、主審のポジションって難しいなあ~という毎度の結論になってしまいます。

 

でも、最後に一言。通常経験の浅い4級審判員の方々の位置取りを見るとあまりにも争点から遠過ぎることが多いです。つまり走っていない動いていないんですね。以前にも書きましたけど、プレーに巻き込まれるくらい近づいてください。位置取りの良しあしなんて、まずは走って動いてから考えるべきことですから。

 

では、I'll be back.

ベルギー代表対日本代表戦「真のマン・オブ・ザ・マッチ」2018FIFA ワールドカップロシア大会 雑報その⑤

ハリルホジッチ監督が不可解なタイミングで解任された時点で(理由の如何は問わず)正直、今回の日本代表を素直に応援できない自分がいたのですけど、昨日のベルギー戦は素晴らしいものでした。それは日本代表の健闘はもちろんベルギー代表の強さに対するものでもあります。FIFA World Cupツイッターアカウント曰く「この試合のマン・オブ・ザ・マッチを選ぶのは難しい」。ここは贔屓目で日本代表全員を「マン・オブ・ザ・マッチ」に選びたい!と思う次第です。

 

でも、この試合の真のマン・オブ・ザ・マッチはセネガルのDIEDHIOU Malang 主審にあげたい!試合前から「しがらみ」の中プレッシャーもあって臨んだはずですけど、本当にこの素晴らしい試合を素晴らしい判定とマネジメントで支えていたと思います。彼の「活躍」(=審判員が本当に活躍すると目立たないのです)なくしてこの試合を心から楽しむことは出来なかったと言っても言い過ぎではないと思います。

 

なによりも後半のアディショナルタイムにおけるベルギー代表の素晴らしいカウンターアタックの時のディディウさんの走りを見よ!これぞ永久保存版です。ボールの行方よりそちらに見とれてしまった・・・。

 

「日本にとって不利な判定があるかも・・・」なんて類の記事を書いた記者さんや一瞬でもそう思った方たちはディディウ主審に直接謝罪して(苦笑)あらためて敬意を表して下さい!

 

サッカー審判員というのは自(国)チームの状態がどうであれ「サッカーの魅力を最大限引き出すように、試合環境を整備し、円滑な運営をする」というミッションに背くことは出来ない生き物なのです。

 

では,I'll be back.