遠い日のラフプレー 後半
(前半からの続き)
雨でぐちゃぐちゃになったグランド。
ボールを持った右ウイングの私に6年生の一人が猛烈な勢いでスライディングタックルしたのでした。
まるで羽か綿帽子のように私の体はフワッと空中に舞い上がり、ボールはラインを割った。不思議と痛みを感じなかった(ように記憶している)。その6年生の先輩はぐちゃぐちゃのグランドを活かしてまるで魚雷のように私の足元に滑りこんできたのでした。
「ナイスプレー!」「ナイスガッツ!」
そんな声が6年生達から上がりました。
もともと割とおとなしい(気弱な)印象があったその6年生の先輩。やはり彼さえも今日は(仮に呼ぶなら)インストラクターのあの人から見られていることで、その様ないつにない闘志溢れるプレーをしたのでしょうか。
不思議なことに、5年生、6年生の2年間サッカーをやって数十年後の今、鮮明に覚えているシーンは公式戦ではほとんどなく、この紅白戦のまさにこのシーンなんです。
このとき、先輩のプレーが「ラフプレー」だったのか。それは思い出せません。フリーキックにもならずスローインで再開されたかもしれません。不用意だったか、無謀だったか、過剰な力だったか?なにゆえか、ボールを失ってバランスを崩したような感触もあるし。今はもう、わからないというのが正直なところです。
そのスライディングタックルの先輩は試合後も意気上がっていて、なによりまわりの6年生が今まで見たことなかったようなプレーに興奮してました。
一言でいえば「小学生がやらない凄いプレーをやった」という自負にみなぎっていたように思いだされます。
そして試合が終って「あのインストラクター」の方からのコメントがありました。
今でもその言葉がでたときの「あのインストラクター」の方の言い方や皆に走った衝撃(大袈裟にいえば)は覚えています。
「(スライディングタックルがあったが)あのようなプレーを君たち小学生には勧められない」というような言葉です。
意気上がっていた6年生も消沈したような、皆黙ってしまったようなそんな雰囲気でした。
その人のコメントには、怪我の防止やファールになることを回避するかのニュアンスもあったように思います。でも、なにより自分がこのことを鮮明に覚えているのは、そのコメントの最も意味することは、将来のプレーの可能性を閉ざしてしまうことにあったからだと思います。
つまり、本当に鍛えて身につけるべき基本的プレーを置き去りにして「大人のプレー」をマネすることの、ちょっときつい言い方ですけど「浅ましさ」のようなことを伝えたかったんだと思います。
あとはもう思い出せません。昔のことです。
そんな自分が今、審判やっているとき、この遠い日のラフプレーと「あの人」の言葉が響きます。
多分、少年のサッカーの可能性を最大限引き出してあげたいとあの人は考えていたように思います。
今回は昔話でした。
では、I'll be back.