ゴールキーパーがボールを保持している状態を正確に言えますか?-後編
クリスマス前の三連休。久しぶりに小学生の公式戦(20分ハーフ)の主審、副審を務めました。これが散々の出来。色々と反省ポイント満載なんでここには全部書ききれません。一言でいうなら「実戦」から遠ざかっていたのが問題。
気を取り直して「ゴールキーパーのボール保持」についての後編です。
さて大前提を再度確認です。
「ゴールキーパーが手でボールを保持しているとき、相手競技者はゴールキーパーに挑むことができない。」
このガイドラインの英文は以下の通り。
”When a goalkeeper has gained possession of the ball with his hands, he cannot
be challenged by an opponent.”
では、「保持している状態」のガイドラインの条文を見てみましょう。以下の3つです。
次のとき、ゴールキーパーがボールをコントロールしていると判断される。
●ボールがゴールキーパーの両手で持たれているとき、またはボールがゴールキーパー
の手または腕とグラウンドや自分の体など他のものとの間にあるとき
●ゴールキーパーが広げた手のひらでボールを持っているとき
●ボールを地面にバウンドさせる、または空中に軽く投げ上げたとき
これを英文で見てみましょう。
A goalkeeper is considered to be in control of the ball:
• while the ball is between his hands or between his hand and any surface
(e.g. ground, own body)
• while holding the ball in his outstretched open hand
• while in the act of bouncing it on the ground or tossing it into the air
まず「ボールをコントロールしている」=「ボールを保持している」ということになります。これは大切なポイントです。「保持している」という言葉だけで捉えると何か両手でしっかりとボールをキャッチしているような状態のみを思い浮かべるかもしれません。でも「コントロールしている」という言葉なら必ずしも、両手で持っている状態だけではないことも窺えるのでは?
ということで以上のガイドラインを言い換えると「ゴールキーパーがボールをコントロールしている時には相手競技者はゴールキーパーにチャレンジできない」となります。
で、その「コントロールしている状態」その①です。
①ボールがゴールキーパーの両手で持たれているとき、またはボールがゴールキーパーの手または腕とグラウンドや自分の体など他のものとの間にあるとき
①while the ball is between his hands or between his hand and any surface
(e.g. ground, own body)
英文で見て分かる通り両手=his handsです。で次の「手または腕」=his handとなっています。そうSがないので単数です。なのでこれは片手でもOKということです。ゴールキーパーが片手でグランドに向けてボール押さえつけている状態は「保持」になるのでこの時には相手競技者はチャレンジする権利はありません。
この手とグランドとの間でボールが保持されている状態は稀なことではなく(特に両手とグランドの間にボールがある状態は)常に起こりえることです。ところが前編でも書いたとおりこれを保持とはみなさず(理解できてないので)そのままチャレンジを続けさせている審判の方が多いです。
週末の試合でも自分が副審をやっていた時に同じことが起こり相手FWの選手が
ゴールキーパーの手とグランドの間にあるボールを蹴って奪ったので(で主審は笛を吹かなかったので)、フラッグアップしました。
この手とグランド(もしくはゴールポスト)の間にボールがあるときはすでにゴールキーパーによってコントロールされている状態であることを覚えておくだけで無用なチャレンジは回避され、あり得なかった得点を認めるということもなくなります。
あと重要なポイントは「手=hand」というのは理論的には指1本でも手となります。また二の腕(これも「手」です)とゴールポストの間にボールを挟んでいる状態でも保持となります。両手でしっかりと押さえつけている状態だけでないことを常にイメージしていることが大切なのです。
では手と相手競技者(または味方競技者)の間にボールがあるときは保持している(=コントロールしている)と言えるのでしょうか?前編最大の疑問ですね。これは最後に。
引き続き「コントロールしている状態」その②です。
② ゴールキーパーが広げた手のひらでボールを持っているとき
②while holding the ball in his outstretched open hand
これ、さっきの①と対になってますね。つまり「両手=between his hands」は保持となり、片手なら「広げた手のひら=his outstretched open hand」でなければ保持とならないということです。
例えば、両手「グー(=握りこぶし)」の状態でボールを挟んでいれば保持です。両方の二の腕の間にボールがあっても(稀でしょうけど)保持です。でも、「グー」の状態で片手に乗せていてもこれは保持にはならない。ゴール前の競り合いならこれ普通にパンチングに見えますね。パンチングせずに手の甲に乗せていても保持になりません。
この「広げた手のひらでボールを持っているとき」にボールを奪われてそのまま得点が認められたケースはYouTube等にあるプレミアリーグの試合映像でも見ることができますね。これはゴールキーパーがボールをリリースをすることの邪魔とも考えられます。
(例えば今にも片手でもったボールをパントキックしようとしていたなど)
ゴールキーパーに対する反則
●ゴールキーパーがボールを手から放すのを妨げることは、反則である。
●ゴールキーパーがボールを放そうとしているときに競技者がそのボールをけるまたは
けろうとすることは、危険な方法でプレーすることで罰せられるものとする。
では、片手でボールを掴んで下向きに(グランドに向けて)ボールを持っていたら保持にならずチャージしてもいいのでしょうか?仮にこれが手の状態が「広げた手のひら」になってなくても「保持している=コントロールしている=リリースしていない=コントロールを失っていない」と理解すべきでしょうね。このことは次の条文(「コントロールしている状態」その④?)も保持しているケースとして記されていることからも妥当と言えるでしょう。
「ゴールキーパーがボールを意図的に手で転がして運ぶことも保持にあたる。」
「コントロールしている状態」その③
③ボールを地面にバウンドさせる、または空中に軽く投げ上げたとき
③while in the act of bouncing it on the ground or tossing it into the air
これは④の状態と同じと言えるので解説は必要ないでしょう。
上記①、②、③の特に①の状態の様々なバリエーションをイメージ出来るかが、ゴールキーパーがボールを保持しているのに相手競技者にチャレンジを続けさせている「ミスジャッジ」を一掃する上でも大切と考えます。そのイメージを明確に持った上で素早い判断を主審は求められます。
例えば、ゴール前の競り合いでボールを保持したゴールキーパーが:
A:チャレンジされてボールを落としてしまったのか(コントロールを失ったのか)?
B:チャレンジとは関係なく(ミスで)ボールを落としてしまったのか(コントロールを失ったのか)?
の判断です。
この判断ひとつでAのケースでは防ぎ得た得点を認めたり、Bのケースではせっかくの得点の機会を主審が潰してしまうのか、どちらにしても試合の流れを大きく決定づける誤審になるのか的確なジャッジになるのかの分かれ道となるわけです。
では、最後に前編で私も直面した我がチームの監督が発した以下の疑問への答えです。
「ボールが手とグランドの間にあると保持していることになるわけだけど、ボールがゴールキーパーの手と相手選手の体の間にあるとどうなるわけ?」
再度ガイドラインの該当条文の和文と英文を見てみましょう。
ボールがゴールキーパーの両手で持たれているとき、またはボールがゴールキーパーの手または腕とグラウンドや自分の体など他のものとの間にあるとき
while the ball is between his hands or between his hand and any surface
(e.g. ground, own body)
(下線筆者)
「他のもの」は英語では any surfaceとなっています。直訳すると「いかなる表面」でしょうか?「いかなる」なら相手競技者の背中も?味方競技者のおでこも?
ここを「コントロール」という概念に照らし合わせて考えるならば相手競技者の「表面」では自分の意思した通り(=コントロール)にはなりません。また、相手も背中でコントロールしているとも言える状態です。で、味方の選手でも完全にゴールキーパの思い通りにはなりません。
逆にグランドやゴールポストは意思を持っていないので、その表面と自分の手の間にボールがある状態は相手競技者のチャレンジを受けるか、ミスか自分の意思でリリースしない限りボールのコントロールをゴールキーパーが失うことにはなりません。
違う視点でいえば6秒間ボールを保持できるかどうか?ということでも検証できます。相手競技者の体との間では無理ですね。味方競技者なら出来る?協力すればできますね。ただ、この状態では味方競技者がコントロールしているのかゴールキーパーがコントロールしているのかが不分明です。
以上のことから答は「ボールがゴールキーパーの手と相手(または味方)選手の体の間にある」場合はゴールキーパーがボールを保持しているとは「みなさない」です。
さて冒頭でも書いたように、以上のことを理解した上で「実戦」で実践することが何より大切です。一度でもゴールキーパーがボールを保持した状態で攻撃側競技者がチャレンジしようとしていたら笛を吹く、フラグアップする経験を積むことで頭で理解されたことが、まさに身につくことでしょう。
では、I'll be back.