ターミネーター3級審判員の反省部屋

パブリックプレッシャーを感じながら今日も走る。サッカー3級審判員の"I'll be back!"な毎日

ハンドにおける「推定有罪」 - 審判員と選手が学ぶべきこと

年に何回かあるビデオ研修なんかで「今のファウルと思う人?」とか「カード出す人は?出すなら何色?」と矢継ぎ早に講師の方から質問されたとき、未熟な私なんかは判断に迷ったり、手が挙がっている人数なんかが気になって・・・それでは審判員としてダメなんですよね。

 

「サッカー審判員として一番大切なことは何だと思います?」

 

私は自分がサッカーの審判員をやっていることが話題になって興味を持ってくれた人には必ずこの質問を投げかけます。で・・・その答えはというと・・・。

 

別に正解なんてものはないんですけど、私の答は「決めること」です。「動体視力」(もちろん資質として優れていた方がいいですよね)とか「公平であること」(もちろん姿勢としてとても大切です)とか色々な答を頂きますけど、嘗て今まで誰一人として「決めること」と答えた方はいません。当たり前ですよね。なぜなら「当たり前」過ぎるからです。審判員が他のことはともかくも「決めること」をしなければ、どっちのチームのスローインで再開なのか、ゴールキックなのか、コーナーキックなのか、ファウルなのか正当なプレーなのか、得点なのかオフサイドの反則なのか等々、試合は進行しなくなります。

 

ですからどんな状況でも常に笛を吹くべきなのか笛を吹くべきでないのか等々審判員は決めなければなりません。

 

ビデオ研修なんかやって迷っている自分自身がいると「審判になってないよ~きみ~」と自己嫌悪に陥るわけです。

 

さて、いつも理屈こねくり回している私ですけどこの「決める」瞬間はわりとファーストインプレッションを重視しています。もちろんなぜその様に決めたのか根拠を確固と持っていなければなりませんけど。ファーストインプレッション、つまり最初に事象を見た瞬間の自分の直感に従うということです。そもそも試合中はじっくり考えてから判定を下す・・・なんて余裕はありません。もちろんそれは乱暴にカンに頼るということでもないように思います。最良のポジションから必要な限りの視覚情報を自分で瞬時に入手することで、その情報が認識された瞬間にまるで第二の本能のように判定の動作に移る・・・(よく分かったような分からないような)カッコよく言えばこんな感じでしょうか。

 

さていつもながら前置きが凄~く長くなってしまいました。さて今回のお題は土曜日に行われたFUJI XEROX SUPER CUP 2016 サンフレッチェ広島 VS ガンバ大阪の試合の後半9分に起こったガンバ大阪、丹羽選手の「ハンド」についてです。

 

この試合TVで見ていたのですけど、後半のこの時間は見過ごしてしまい後で録画映像をチエックしました。スローモーションのリプレイを見る前に私がファーストインプレッションで「決めた」判定は丹羽選手が「ボールを意図的に手または腕で扱う」という反則、つまりハンドの反則ということです。

 

仮に広島の柏選手が蹴ったボールが丹羽選手の手(腕)に当たったとしたら、これがなぜハンドの反則になるのかは、こちらの記事をじっくりとご参照ください(→ 「ハンドにすべきか。すべきでないか。それが問題だ。」後編 

 

さてではスローモーションでこの時の事象を見てみると・・・うーんたしかに丹羽選手が主張しているように顔に当たっているような・・・。ここで考えられる可能性は三つだけ。

 

1)手(腕)にボールが当たった → ハンドの反則=サンフレッチェ広島

                  ペナルティキックで再開

2)顔にボールが当たった → サンフレッチェ広島コーナーキックで再開

3)顔に当たった後に手(腕)にボールが当たった → 1)と同じ再開方法

 

さて何度も見直した結果3)にはなっていないようです。確定はできないのですけど2)のように見えます。映像からはなかなか確定できないので、ここからは「顔に当たってそのままゴールラインを割った」と仮定して話を進めます。

 

2)であるならもちろん主審の判定はファウル(=この場合ハンド)ではなくコーナーキックとすべきでした。

 

では、巷で言われているように飯田淳平主審の「誤審」として責められるべきは主審ばかりでしょうか?「やはり日本のサッカー審判員はレベルが低い」というお決まりの一般化の誤謬の声を甘んじて聞いていなければならないのでしょうか?

 

とはいうものの、まず飯田主審のポジション。サンフレッチェの柏選手がクロスボールを揚げようとボールを蹴った瞬間、飯田主審はペナルティーエリアの外を柏選手、丹羽選手に向かって走っていました。次の展開(争点がゴール前になる可能性がありこれは注意して監視すべし)を考えると決して不味い位置ではないように思います。一方あの位置と距離は両腕を高く上げた丹羽選手の身体と折り返されたクロスボールの軌道の接点を見極めるのに最良の位置だったと言えるのか?柏選手がクロスボールを揚げる可能性が高いと予想できたはずなので、ここはじっくりと検証する必要があるかと思います。

 

さて、丹羽選手の動作はどうでしょう。つまり両腕を伸ばして広げてスライディングタックルを試みています。この動作は上記過去記事にも書いたように意図としては完全に「アウト」です。顔にボールが当たったのにハンドの反則をとられてPKを与えてしまい、おまけにイエローカードまで出された丹羽選手は「運が悪かった」となるのでしょうけど、私の見方は逆でボールが「幸運にも」顔に当たったので、そのことでハンドの反則を取られても「運が良かった」と言えるのではないでしょうか。なぜなら丹羽選手自身が反則を犯したことでPKを与えたと周りから責められることはないのですから。

 

「なんだか妙な論理展開だな」と思われている方も多いでしょう。私が言いたいのはあのような状況であのような動作(攻撃側がまさにクロスボールを揚げる場面で、守備側競技者が両腕を伸ばした状態で上に向かって広げている)をしていることは、すでにハンドの反則してでも止めようと意図していることなので、顔にボールが当たったことは幸運としか言いようがないということです。

 

一方で丹羽選手としては顔でもどこでもとにかく自分の身体に当ててセーブしたかった一心でしょう。その意図も痛いほど分かります。

 

ここからは審判員としてというよりサッカーファンとしての思いを書きます。ちなみに私はサンフレッチェ広島ガンバ大阪も同様に大好きなチームです。そういう意味で丹羽選手があの状況で絶対防ぎたかったことは三つあったはずです。それは:

 

1)クロスボールをあげさせない。

2)ドルブルでぬかせない。

3)PKを与えない。

 

の三つです。

 

それにもかかわらず「結果的に」3)を守ることが出来ませんでした。勝負なので、それもプロの勝負なので結果が大切なはずです。なので勝負に負けられない・・・勝つ!という結果を誰よりも、丹羽選手が求めたなら(で求めたはずです)、どのような理由であってもPKを与えてはならないはずです。ならばあのような動作はするべきではなかったはずです。まさに「李下に冠を正さず」です。

 

さて、わたしには飯田主審を擁護する義理も義務も(そのような大それた力も)ございませんので、仮に丹羽選手のプレーがハンドでないとしたら事象と判定が異なっていたことは審判員として素直に受けとめる必要があろうかと思います。なによりも別に隠すようなことではありません。主審のポジションの取り方等、今回のケースから我々審判員が学びそして今後に活かせる建設的な議論になることを祈ります。

 

一方で「誤審」のひとことで片づけられるにはあまりに「勿体ない」ので、まさに日本のサッカーのレベル向上のいい機会と(一般化の誤謬との批判も甘んじて受ける覚悟で)僭越ながら重い筆をとった次第であります。

 

では、I'll be back.