ターミネーター3級審判員の反省部屋

パブリックプレッシャーを感じながら今日も走る。サッカー3級審判員の"I'll be back!"な毎日

ゴールになってもキッカーにキックのやり直しの機会を与えてはならないケース(ただし「例外」あり)。

 久しく記事更新から遠ざかっておりましたけど、その間実践に励んでおりました。やはり夏場とくに今年のようにさらに過酷になったと思える湿度と気温の中での審判業務だと疲労が中々抜けきりません(単に歳ということか)。

 

さてそうこうしているうちに2016/17の競技規則改正を全てカバーする間もなく2017/18の競技規則改正がやってまいりました。改正点を全て記事化していたら、またまたあっという間に1年が過ぎてしまいそうです。

 

なので自分が気になった点というか直接得点結果に影響がある項目をまずは取り上げます。改正点を明確にするために3年分の競技規則の同項目を併記しようと思いましたけど・・・長ったらしい&余計に分かり辛くなりそうなのでやめ。実は改正点と言えど規則そのものは何も変わっていないので要約すると:

 

「ペナルティー(マークからの)キック時に警告に値する(=不正な)フェイントを行ったキッカーには、ゴールもしくはノーゴールの結果にかかわらずキックをやり直しさせる機会を与えない」

 

というものです。

 

これは2015/16版でも2016/17版でも2017/18版でも変わっていない規則なのです。ただ表記のされ方が大幅に変わり以上の規則がより明確にされた点に大きな意義があると思います。

 

つまり、2015/16版でも「競技規則の解釈と審判員のためのガイドライン」においてキッカーが不正なフェイントを行った場合には反スポーツ的行為で警告されなければならないことは明確でした。一方でゴール結果との関係が明記されていなかったため(逆に言えば大半の再開方法はゴール結果とどちらの競技者の違反なのかの関係で説明されていたため)本当はいかなるキック結果の場合でも、即間接フリーキックでの再開となるべきなのにキッカーに再びキックの機会を与えるという間違った規則適用が起こる恐れがありました。

 

2016/17版では「ボールがゴールに入ったがどうかにかかわらず」という文言と共に:

●後方にけられる

●特定された以外の味方競技者がキックを行った

●不正なフェイントを行った

場合には間接フリーキックで再開されることが明確になりました。

またキックの結果による再開方法や処置の「要約表」も大変分かりやすくなりました。

(そもそも「例外」が複数存在するにもかかわらず、すべてを「ゴール」「ノーゴール」の結果とどちらの競技者の違反なのかで要約しようとしたのには無理があったような・・・。)

 

2017/18版において明確化という方向で同規則はさらに「進化」しました。それはペナルティーマークからのキックの場合においてキッカーが不正なフェイント等の反則を犯した場合について「キックは失敗として記録」と明記されたことです。(等と書いたのは例えば「大声を出してゴールキーパーを威嚇する・声で惑わせる」のように「助走完了後のフェイント」以外の反スポーツ的行為も含まれると解釈出来るからです。)

 

ペナルティーマークからのキックの場合、間接フリーキックでの再開というオプションはないため、規則を曖昧に理解しているとキックの結果がゴールであればキッカーにやり直しの機会を与える恐れがあったのではないのでしょうか?(私自身、このようなケースに直面したらイエローカードの提示は出来ても、やり直しの機会を与えていたかもです。)

 

というわけで:

 

サッカー競技規則 2017/18 

第10条 

3.ペナルティーマークからのキック

ペナルティーマークからのキックの進行中

● 主審がキックを行うよう合図した後に犯した反則でキッカーが罰せられる場合、そのキックは失敗として記録され、キッカーは警告される。

 

という表記は歓迎すべきものであります。

 

上記規則をちゃんと理解しておけば堂々とカード提示後、ノーゴールとの判定が出来ますね。いや~めでたしめでたし・・・と、ことが簡単には収まらないのが世の常。それは上記の規則の後に次のような文言が続いているからです。

 

  ゴールキーパーとキッカーの両方が同時に反則を犯した場合:

・   キックが失敗した、あるいは、セーブされた場合、そのキックはやり直しとなり、 両方の競技者は、警告される。

・   ボールがゴールに入った場合、得点は認められず、そのキックは失敗として記録 され、キッカーは、警告される。

 

同じくペナルティキックについても:

 

第14条 ペナルティキック

(中略)

競技者がより重大な反則(例えば不正なフェイント)を犯した場合を除き、両チームの競 技者が反則を犯した場合、キックが再び行われる。ただし、ゴールキーパーとキッカーが 同時に反則を犯した場合:

●ボールがゴールに入らなかった場合、キックをやり直し、両方の競技者は警告される。

●ボールがゴールに入った場合、得点は認められず、キッカーは警告され、守備側チー ムの間接フリーキックでプレーを再開する。

 

と新たに文言が加えられています。

 

そうなんです、これは最初に書いた今回の要点である「ペナルティー(マークからの)キック時に警告に値する(=不正な)フェイントを行ったキッカーには、ゴールもしくはノーゴールの結果にかかわらずキックをやり直しさせる機会を与えない」のまさに「例外」なんですね。不正なフェイントを行ったから無条件に再キックの機会を与えないというわけではないということです。う~ん、ややこしい。

 

では解説。上記のポイントは「同時反則」という条件にあります。ご存知のように同時に反則が起こった場合には「より重いものを罰する」という原則が適用されますので、例えば:

 

キッカーが不正なフェイントを行ったと同時に守備側競技者がインプレーになる前にペナルティーエリア内に侵入した場合には(ゴール、ノーゴールの結果にかかわらず)キッカーを警告したのちに間接フリーキックでの再開

 

となります。

 

この原則でいけば同じ重大さの反則が同時に起こればゴール、ノーゴールの結果にかかわらずキックはやり直しになります。つまり:

 

① ゴールキーパーがインプレーになる前にゴールライン上を飛び出したのと同時にキッカーが不正なフェイントを行いノーゴールになった場合、両競技者は反スポーツ的行為で警告され、キックはやり直しとなる。

 

一方で:

 

② ゴールキーパーがインプレーになる前にゴールライン上を飛び出したのと同時にキッカーが不正なフェイントを行いゴールになった場合、キッカーのみが反スポーツ的行為で警告され、キックのやり直しは行わない。

 

ということなわけです。

 

さてさて、これらの規則を「例外」と書いたのはあくまで不正なフェイントがキッカーによって行われたという視点からのことで、実は競技規則の原則とは一貫性が保たれているのです。

 

つまり①は同じ重さの反則が同時に起こったのでゴール、ノーゴールの結果に関わらずキックはやり直しになります。で、②は結局は「不正なフェイントの場合にはキックのやり直しは行わない」と同じことであり、実はこれも「より重い反則を罰する」の原則に基づいている条項なのです。

 

②の解釈が多少ややこしい。つまりゴールキーパーは反則は犯しているものの、ゴールになっているので「警告の対象になる反則」にはなっていない。一方不正なフェイントは常にその行為自体で警告の対象なのでキッカーは「より重い反則を罰する」の原則から警告されペナルティーキックの場合は間接フリーキックでの再開、ペナルティーマークからのキックの場合は失敗として記録されるわけです。

 

この条項を曖昧に理解していると主審は「火傷」しますね。例えばキッカーが不正なフェイントを行ったと同時にゴールーキーパーがインプレーになる前にゴールラインを離れたので、その事象をもってキックされたボールが大きくゴールを逸れたにもかかわらずキックのやり直しを命じるのは規則の適用を誤っていることになります。そもそも助走を終了したのち一度ボールを蹴るフリをして、キックした場合にはゴールキーパーがフェイントにつられてインプレーになる前にゴールラインを離れることが大いに考えられます。その事象をもってしてボールをセーブしたゴールキーパーも反則を犯したと判定することは公平性に欠けています。競技規則を理解しつつも、結局は何が選手もベンチ役員も納得できる判定であるかを常に意識すべきかと思います。

 

「策士策に溺れる」であってはなりませんね。

 

そもそも上記のようにペナルティー(マークからの)キック時に警告となる反則が同時に起こることは稀です。なので本当に上記の規則を適用すべき「例外」事象なのかを正確に見極めないと選手にもベンチ役員にも「?」な判定になります。一方で稀であっても起こるべくして起こったら毅然と迷いなく判定を下す必要があります。

 

というわけで、今一度皆さま自身で2017/18競技規則を紐解いていただきご意見等頂けますと嬉しい限りでございます。

 

では、I'll be back.